ショルダーリッジは赤岳の肩から派生する5本のリッジ。そのうち4本が登攀ルートとして登山大系に紹介されているが、WEB等に出ている記録は少なく、第4、第5リッジにいたっては、記録は皆無。2008年にショルダーリッジ右ルートを登って以降取り組んだショルダーリッジシリーズ。
今回、その第5リッジを登ったことで、ひと通りのトレースを達成した。人気の八ヶ岳西面にして、トポや記録が乏しいショルダーリッジ各ルートなので、これまでの登攀記録をひとつにまとめた。
この期間には私自身の転勤で他会に所属していた時期もあるので、ぶなの会報に掲載されなかった記録も一部あるが、全ての登攀において、ぶなの会会員が含まれたパーティであったので、ぶなの会としてあらためて記録を残したい。
●地形の特徴
ショルダーリッジは、赤岳主稜から追うと赤岳沢を隔てた左側に5本のリッジとして並んでいて、そのくっきりと刻まれた姿は、むしろ赤岳主稜以上に存在感がある。右から第1~5リッジと数え、比較的登られている第1リッジと第3リッジは、それぞれは右ルート、左ルートとも呼ばれている。
写真で見ると赤岳全体は右から左下に向かって断層が斜めに走り岩壁を形成している事が判る。リッジの形状はおおよそ右側斜面の傾斜が強く切れ落ちていて左側斜面が緩やかなケースが多い。ルートに入ると、西面なだけに午前中の早い時間は陽が当たらず非常に寒い。
●ショルダーリッジがメジャーでない理由は?
単純にしっかりしたルート図や参考になる記録が少ない事、また登山大系を参考にしてもルートの様子やアプローチが不明瞭であり、それらが登攀パーティの少ない要因だと考えられる。逆にこの情報の少なさがショルダーリッジを登る上での楽しみでもあるので、実はここで発表するのも少しためらう。
●ルートの面白さは?
好みによるが、私は好きだ。人気の赤岳主稜の混雑を横目に渋滞皆無の静かなクライミングが出来る。右ルート、左ルートは岩の性格が強く変化があり、登っても赤岳主稜や石尊稜、中山尾根に引けを取らず面白い。
第4、第5リッジは岩のセクションが少なく難易度としては下がるが、残置物が全くなく自分たちでルートファインティングをする面白さ、次に何が出てくるか判らない緊張感があり良いルートとだったと思う。
●アプローチ
少ない記録を見ると、各パーティそれぞれ試行錯誤している様だ。私の場合、これまですべて文三郎道の急階段を登りきった付近から赤岳沢へ向けて急斜面を下降した。懸垂は特に不要で時間的にも一番早いと思う。
下降中は地形図では読めない現場での細かなルーファイが必要で、ガスなどで壁が見えない時はこのアプローチ方法は使えないが、そもそもそのような時は取り付いてはいけない。
このアプローチは、斜面を駆け下りる時の「さあ行くぞ!」と気合が入る緊張感も気に入っている。
●プロテクション
比較的登られている右ルート、左ルートでも残置ハーケン等はほとんどなかった。支点は灌木、ピナクルでとる事が多いが、岩が脆いのでバックアップは必要。第5リッジ以外スノーバーは不要だった。カムはこのボロくて雪の詰まった壁に対して有効なのか不明。自分は使った事がない。
●登攀記録
●ショルダーリッジ右(第1リッジ) 2008年12月7日 LA久 (ピナクル山の会)、I原
●ショルダーリッジ左(第3リッジ) 2010年2月13日 LA久 、I丸 (ピナクル山の会)
●ショルダー第4リッジ 2010年12月5日 LA久 、I
●ショルダー第5リッジ 2014年12月7日 LA久 、M中
※第2リッジはルートではない
詳細な記録は事項以降に掲載。第5リッジは今回初の登稿。それ以外は、過去のぶなの会会報、ピナクル山の会会報に掲載された原稿を一部再編集してまとめた。
赤岳ショルダーリッジ右ルート
第1リッジは別名「右ルート」と呼ばれる。ショルダーリッジの中では最も岩の性格が強い。アプローチの近さからか、そこそこ登攀パーティを迎えている様子でWEBでも記録を散見する。
しかし残置支点は少なく赤岳主稜の喧騒を横目に静かな登攀が楽しめる。核心は1ピッチ目の離陸だった。
○期日 : 2008年12月7日 快晴
○メンバー: LA久 (ピナクル山の会)、I原
○タイム : 6:10 行者小屋出発 ― 7:40 ショルダーリッジ右 取付き ― 12:40 終了点 ― 赤岳山頂~文三郎道 ― 14:00 行者小屋
(記録:A久)
転勤の為ぶなの会を退会後の12月、恒例の「雪山初め」と東京出張の日程が合い、福岡から参加した。1年ぶりの八ヶ岳。いつもと変わらない冬シーズン初めのトレーニングだけど、唯一変わったのは、今回は九州からの遠征という事。判っていたけど八ツは寒かった。特に九州で生活していると、この寒気には瞬時対応は出来ない。行者小屋で-13℃。
ショルダーリッジ右ルートは2日目に登攀。メジャーな赤岳主稜を横目に、渋いルートを選んだ。南八ヶ岳の主峰、赤岳の肩から派生する岩稜で、支点が少なく、ルートファインティングが難しいという話だったが、この上ない晴天に恵まれ無事完登。シーズン幸先の良いスタートを切ることができた。
●アプローチ
記録が乏しいこのルートでは、取付きが判るかがもっとも心配だった。移動性高気圧に覆われたこの日、夜明け前の暗がりの中に赤岳西壁はくっきりと浮かび上がり、進むべきルートは直ぐに特定できた。
登山大系では取り付きまでのアプローチルートがいくつか図示されているが、我々は文三郎道途中から急斜面を駆け下りる方法を選んだ。理由はラッセルの区間が短く、時短に有効と思われた為。赤岳沢の雪崩を警戒しながらトラバースし、岩壁基部までラッセルで取付きに無事到達。ひとまずホッとする。
●1ピッチ目(A久リード)
下部岩壁は登り出しがうすかぶり気味。外傾したホールドはグローブでは拾えない。ダブルアックスを叩き込むと岩がボロボロと崩れてしまう。雪を払って弱点を見つけ出し、そろりそろりとピックを引っ掛け、アイゼンで細かなスタンスを拾いつつ強引に離陸成功。体ひとつが入る垂直のルンゼを10m登って稜上に上がりこむ。ホールド、スタンスともに脆いく難しい。後半は潅木茂る雪稜を右上。
●2ピッチ(I原リード)
簡単な雪の急斜面。第2岩壁基部手前でピッチをきる。ロープ操作は着膨れとグローブによって半ば体の自由を奪われ、ビレイ中はひたすら寒気に耐え、痛い。
●3ピッチ(A久リード)
岩壁基部でルートに悩む。バンドを右に回り込み、バンドが切れた所から薄く雪のついたフェースを直上。ピンは皆無、岩はボロボロでハーケンは打てない。信用できるピナクルも少なく激ランナウト。孤独と緊張のクライミングを強いられる。ルンゼ一本を隔て、右手には赤岳主稜。人気ルートだけに3パーティも取付いて賑やか。こちらとは対照的。
やっと比較的足場の安定したリッジにあがりこむが、ここも確保支点は乏しく、こぶし半分大の抜けそうなピナクルにシュリンゲをタイオフ。バックアップにハーケン1枚打ち足してセカンドをビレイ。
●4ピッチ(I原リード)
体が露出し高度感がある岩壁を左上し、岩のリッジから雪の小ピークへとつなぐ。這い松を掘り出してビレイ。
●5ピッチ(A久リード)
小岩壁凹角を5m直上。ここからが悪い。足元が切れ落ちたスラブのトラバースは、気休めにアングルを1本打って微妙なスタンスに立ちこんでの通過。その後はガシガシ雪壁を登って、ナイフリッジの岩稜を10m水平移動。久々にしっかりした潅木があり確保支点とする。このピッチはシビレタ。
●6ピッチ(I原リード)
すごいスピードで登るなぁと思っているうちに、30mノンストップのランナウト。あっという間に岩稜リッジにあがっていった。ガバガバとはいえ気分は良くない。徐々に風が吹きだす。稜線は近い。
●7ピッチ(A久リード)
傾斜が緩み、岩稜歩きになる。リードしている最中に12時の無線定時交信の時間がきて一時中断。2,800mの高所だからか息が切れる。
各パーティの状況を確認し、登攀再開。振り返ると、眼下には赤岳沢が広がり、吸い込まれるような高度感。切り立った小コルに馬乗りでピッチをきる。
●8ピッチ(I原リード)
最後の岩峰はアイゼンの幅程度のバンドを伝って右から巻き、ルンゼを跨ぐと縦走路に飛び出す。I原さんと握手を交わし、12:40登攀終了。
周囲360度遮るものは無い。遠くには北ア、中ア、南アと富士山が取り巻いており、間近には白く氷雪をまとった八ヶ岳連峰の岩稜が屏風の様に連なって迫る。
赤岳ショルダーリッジ左ルート
第3リッジは別名「左ルート」と呼ばれ、ショルダーリッジ右と並ぶ人気?ルート。岩、雪壁がバランスよく配置され、変化があって面白い。取り付きは顕著な尾根を詰める為、アプローチで迷うことはないだろう。残置物は少なく、ルーファイやピッチの切り方、ビレイ支点の工作などオリジナルな登攀が楽しめた。
○期日 : 2010年2月13日 晴れ
○メンバー: LA久 、I丸 (ピナクル山の会)
○タイム : 6:00 行者小屋出発 ― 7:30 ショルダーリッジ左 取付き ― 12:20 終了点 ― 赤岳山頂~文三郎道 ― 14:30 行者小屋
(記録:A久)
ぶなの会に復帰後の登攀記録。2月の飛び石連休に有給をひっつけて、九州からかつての仲間たちが遊びに来た。今回は福岡のピナクル山の会と大分の豊嶺会、そしてぶなの会からはS津さんとA久が集まり、3会7名での合同山行となった。
残念ながら、初日は雨で停滞。翌日も小雪舞い、岩壁にはベルグラが張る悪条件の中でのクライミングだったが、最終日は晴天に恵まれ、八つの景色とルートを存分に楽しんでもらう事ができた。
●アプローチ
朝一、文三郎道をつめてそれぞれのルートに向かう。赤岳主稜に向かう2人と別れ、ショルダーリッジ右、左の2パーティ5名は赤岳沢に向かって雪壁を急下降。先週の高い気温、一昨日の雨と昨夜の雪で雪崩を警戒していたけど、意外に雪の状態は良くサクサクと進む。
右ルートPと分かれて、更にもうひとつ沢を越えるとショルダーリッジ左の末端に到達。しばらくは潅木帯の広いルンゼ状の雪壁登り。この日はノーザイルでOKだった。
文三郎道からもよく見えた顕著な大岩壁基部に到達し、そこでハーネスを装着。
●1ピッチ目(A久リード) 50m
岩壁のスカイラインを登るようにも見えるが、風も強いしちょっとショッパイ。岩壁の右側を回りこむとルンゼ状の雪壁が続き、そこにルートを取る。
小コルを乗っ越した所に懸垂支点を発見、後にも先にもこのルート中で発見した残置物はこれだけ。更に雪壁を15mほど登り、岩壁上部のリッジに出たところで潅木を掘り起こしてビレイ。
●2ピッチ(A久リード)45m
痩せた岩のリッジを左右に乗っ越しながら慎重に通過。高度感が徐々に増してくる。人気の赤岳主稜からは頻繁にコールが聞こえ、今日も大盛況の様子。
対してこちらは予想通り貸しきり。突風が吹き上げる狭いコルでピナクルにセルフをとりぶら下がってビレイ。寒くて孤独。
●3ピッチ(A久リード) 50m
リッジ上に上がり込むとそこは広い雪原。風も吹いてない! 久々の緩斜面地帯に少しホッとする。
●4ピッチ(I丸リード) 35m
リードをI丸さんに交代。幅広な雪壁を進み岩壁基部までザイルを伸ばすが、左右どちらにルートを取るか迷っている。判らないのでとりあえず15mザイルを残しピッチを切る。
●5ピッチ(A久リード) 50m
残置ピンもトポもないショルダー左はルーファイが楽しい。どっちに進むか考え、大した根拠もなく右を選ぶと岩稜のリッジ登りになった。
リッジに出ると再び風が強烈になる。リッジは細りピナクルも乏しいなか、ビレー点を探しながらロープを延ばす。前方にしっかりしたピナクルを発見し、「やった!」と思ったが、あと3mのところでロープ一杯。ピッケルで雪を掘っても、出てくるのは頼りないピナクルばかり。仕方ないのでバックアップをふたつ取ってビレイ。
●6ピッチ(I丸リード) 30m
このあたりからは右ルートと合流のはず。ショルダーのピークまであと少し。傾斜が緩んだ岩稜帯を右上。コルを越えたところでピッチを切り氷柱にタイオフしてビレイ。
●7ピッチ(A久リード) 5m
終了点直下なので、そのまま氷化した壁を2m登る。すると終了点に飛び出す。ショルダーピークは今までの烈風が嘘のように無風で、穏やかな日差しに包まれていた。久々に組んだパートナーとしっかり握手。
赤岳ショルダー第4リッジ
右ルート、左ルートに比べると岩の露出は少なく雪のリッジ、斜面が主体。ショルダーリッジもここまで来ると他パーティの痕跡を見ることはなかった。WEBでも記録は見当たらず、登山大系の大雑把な記述だけが頼り。条件にもよるが、ルーファイがしっかり出来れば困難なピッチは無い。
○期日 : 2010年12月5日 曇りのち晴れ 強風
○メンバー: LA久 、I
○タイム : 5:50 行者BC出発 - 6:50 文三郎道下降点 - 7:45 取り付き -12:05 トップアウト - 地蔵尾根 - 13:40 頃行者BC
(記録:I)
●アプローチ
文三郎尾根を体を慣らしながら登って行くと、やがて空も白んできて、満天の星空が快晴の青空に変わっていきます。トラバースは赤岳主稜のポイントよりもやや手前になります。A久さんに、これが第1リッジであっちが第3で・・・という具合に、まるでガイドさんのようにいろいろ教えていただきトラバっていきます。
下から見たときのトラバる距離は長そうに思えましたが、各リッジをチェックして写真に収めていったりすると、あっと言う間に第4リッジまで来ちゃいました。リッジにあがるところが、ロープ無しではちょっといやらしかったです。そうしてちょっとあがったところに下部岩峰が現れ、木でビレイをとっていよいよスタートです。
●1ピッチ目(I)
右手に聳える岩峰をどう越えるか?正面はフェースっぽい感じ。右手が尾根のラインのようなので、いったん右にトラバースして尾根に乗ってから岩峰を目指す。この岩峰の右側に回り込むとルンゼがあり、こちらをつめた方が簡単そうに見えたが、とりあえず岩の基部を目指す。
岩峰の基部で残り10mとなる。この先はよく見えないし、ロープの流れも考えてここでピッチを切る。でーも、ここはビレイ支点がとれない。左側のボロボロの岩の隙間にキャメの#1と#0.75を決めて、バックアップで、チビ灌木っていうか、とても頼りないチビな幼木の根元にスリングをタイオフする。
この岩峰の次が問題、正面の岩を登って右に回るか、左に回るか、いずれにしろ、基部からはよくわからない。ビレイ点からすぐの左は壁が切れ落ちていることを考えると、右から回るのか!?取付きから見たときも岩峰左側は結構立っているように見えた。やはり、ここは右側に回り込んだルンゼをつめるのかなぁ・・・
A久さんに登ってきてもらい、次をどうするか相談。
●2ピッチ目(A久)
最初は簡単そうな右側のルンゼで行くことになった。だーが、奥壁がぶったっていて、ロープ半分出さないうちにリターン。戻ってくる途中にルンゼの左手(岩峰右側)に取り付こうとしたが、やはり登れないとのこと。断層面を見ると、どうも尾根の右側は立ってしまい、傾斜がきつくなるようだ。一度ビレイ点まで戻ってもらい、作戦会議。
正面の壁を登ってから右手に進むのが簡単そうにみえたが、どうも右側は良くないらしい。残りの左側を行ってもらう。すると、ちょっと上がったら、うまい具合にコルに出て右に雪のスロープがつながっている。灌木でもランニングが取れるし、ここはコルまで行って1P目を切るのが良いかも。(声は届かないかもしれないが)
●3ピッチ目(I)
スロープの上は、傾斜もだいぶ緩くなった雪のスロープ。岩と灌木混じりの中を登って行く。50mロープ延ばしたあたりは雪も深かったが、難しくなかった。ランニングも灌木で取れる。ビレイ支点は這松を掘り起こして工作。
●4ピッチ目(A久)
2つめのちょっとした岩稜帯を超える。Ⅲ級ぐらいか。こえた先は雪のスロープで、ここでもほぼ50mのばす。
●5ピッチ目(I)
だいぶ上の方まで来た。右から第3リッジも近づき、左手には第5リッジが見える。このピッチも難しいところはなく、岩と灌木混じりの尾根を登って行く。
●6ピッチ目(A久)
コンテ。ここからは先はもうショルダーまでもう一息。スリング類を全部A久さんに渡してコンテで行く。A久さんはランニングコンテと言っていた。途中で第3リッジも右から合流。左手に縦走路を登っていく登山者がすぐ近くに見えた。
最後の岩場をのっこすと登山道に出る。距離にして150mぐらいか。最後にお互いの健闘をたたえ、がっちり握手すると、12時をちょっと回ったところでした。赤岳ピークは踏まず、赤岳展望荘まで下り、地蔵尾根経由で行者のベースに戻ることにしました。
赤岳ショルダー第5リッジ
ショルダーリッジの中では最もアプローチが遠い。その為かWEBで記録が見当たらない。情報や残置支点が一切ない分、現地対応力が求められ、未知のルートを解いていく面白さがあった。
自分たちのルート取りでは岩登りのパートは無く、雪壁主体で所々岩場の乗っこしやトラバース、ベルグラのパートが出てくる。支点は基本灌木でとるが、上部にいくとそれもほとんどなく、短いアイススクリュー、スノーバーを各1~2本持って行くと心強いだろうと思った。
○期日 : 2014年12月7日 曇りのち晴れ 強風
○メンバー: LA久 、M中
○タイム : 5:30 行者BC出発 - 6:20 文三郎道下降点 - 7:20 取り付き - 10:20 トップアウト - 赤岳山頂 - 地蔵尾根 -11:40頃 行者BC
(記録:A久)
●アプローチ
暗いうちに行者BCを出発。文三郎道から赤岳沢に駆け下りる地点に着く頃には薄明かりがさす。今朝まで降雪が続いたが、心配していた積雪も15cm程度。雪の状態と視界に応じて突っこむかどうか判断するつもりだったが、どうやらどちらも味方してくれたらしい。予定通り突っこむ。
文三道から雪に覆われたヤブ斜面を赤岳沢へ向けて駆け下りる。もう、このアプローチ方法も4度目になるが、これからルートに向かう緊張感が高揚する好きな場面だ。赤岳沢の横断では所々胸ラッセルとなるが、雪の状態は良く、雪崩の心配は無い。第1リッジの取付きを見送り、第3リッジ、第4リッジへとトラバースしていく。
第4リッジに到達し、第5リッジ下部を偵察。リッジ末端はブッ立っている上に、第4、第5リッジの中間ルンゼには10m程のバーチカルな氷瀑が掛っている。これでは取り付くシマ無しという事で、氷瀑上部から取り付くことにする。第4リッジの下部潅木帯を登り、第5リッジの顕著なピナクルが真横になったあたりでロープを出す。
雪壁を5mクライムダウン、3m氷瀑直下でルンゼを横断し、岩壁下部をトラバースして第5リッジに乗り移る。ハイマツを掘り起こしてビレイ点とする。それにしても寒い。雪面に触れると両手がビリビリ痺れるので手袋を厚いのに換える。
●2ピッチ目(M中) 30m
先が見えないのでスタカットのままで登る。簡単な雪斜面歩きかと思いきや、その通りで、ロープは不要だったかも。M中さんはサクサク登って行った。先に支点となる灌木がないので短めに切る。
●3ピッチ目(A久) 40m
正面の岩峰を直上も考えたがルート前半でハマるとイヤなので左から巻く。潅木混じりのルンゼ状雪壁を20mほど詰めてナイフリッジ上に立つ。その後、しばらく斜面は広がり、一旦ロープをしまう。
●4ピッチ目(M中) 45m
岩のナイフリッジにぶつかり再びロープを出す。ナイフリッジを乗っ越し右手のルンゼへロープを伸ばす。雪は堅雪に変わりアイゼンをきしませ前爪を利かしての登高。支点をとれる潅木、ピナクルが非常に少なくランナウト気味。
●5ピッチ目(A久) 40m
2m氷瀑が行く手を阻む。右岸を巻きにルートを求めるが付近の岩はベルグラをまとい、完全に氷でピッケル、アイゼンをはじき返す。付近にはピナクルもなく、雪を掘って辛うじて潅木1本発見しランナーをとったが、あとはランナウト。40mほど伸ばした岩壁直下でピッチを切りたいが支点になる物は何もない。ピッケル2本を雪面に叩き込んでビレイ支点を作り、フォローを迎える。
●6ピッチ目(M中) 50m
稜線は近い。ルンゼをそのまま最上部まで直上するが、斜面は滑るとどこまでも落ちていくような堅雪。ビレイ支点も雪なのでランナウトは避けたいが、今回の装備にスノーバーは無い。斜面半ばで潅木を掘り出しランナーをとってホッとする。ルンゼを詰めあがったところで1本ランナーを潅木にとった後、左手のチムニー状を抜けるとそこは登山道。一気に視界が開け、青空も広がり風も止む。安堵につつまれ、つい今までの寒さと強風による危機感、緊張から開放される。
第5リッジに乗って以降は終始強風。視界は前方は良く見えたけど、隣の尾根は見えたり隠れたり。顔面、手足の指は痛むほど冷たくて、凍傷予防を意識して行動した。岩登りのピッチはなく残置物は全く無くルーファイも必要で変化に富み、期待以上に面白いルートだった。振り返ると条件が厳しかった分、充実の登攀だった。
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