A久です。
赤沢岳西尾根はいろんな意味で手強い山でした。
トロリーバスを使えばほぼアプローチ無しの尾根でありながら、山にいる間は誰一人として会う事はなかった。スバリ岳からみる赤沢岳西尾根は荒々しい。ここから望むⅢ峰の双耳峰は首をかしげた「猫の耳」だ。登山体系にもⅢ峰Ⅱ峰の記述しかないが、実際は地形図に表されない小岩塔がいくつも続き、体力と根気がいる一筋縄ではいかないルートだった。
今回行ってみて赤沢岳、スバリ岳、針の木岳含め、この山域には黒部側からの多くの魅力的なルートが存在することが判った。また冬季に訪れてみたいけどアプローチが問題。
【メンバー】A久(L、記録)、S津
【日程】4/29-5/3
【ルート】赤沢岳西尾根 - スバリ岳
【行動記録】
●1日目(晴)
7:30 扇沢トロリーバス - 8:30 黒部ダム展望台発 - 9:30 取付き - 15:00 2,150m付近 C1
●2日目(晴)
5:00 C1出発 - 10:50 Ⅲ峰東峰 - 15:00 Ⅱ峰西峰 - 15:30 Ⅱ峰コル付近C2
●3日目(晴)
5:00 C2出発 - 8:30 赤沢岳本峰 - 10:20 白砂のコル C3
●4日目(晴)
4:30 C3出発 - 5:30スバリ岳 - 6:30白砂のコル - ノドの沢下降 - 針の木雪渓 - 8:30 扇沢
【報告】
●4/29 晴れ
夜行バスで扇沢入りし、始発のトロリーバスに揺られ約15分で黒部ダムに到着。ダムを見下ろす「ザ・観光地!」というような展望台で、ガチャ、ヘルメット、アイゼンを装着する。場違いな感じだがここが入山地なのだ。見上げる尾根は急峻で黒々。地形図を見ても最初はかなりの傾斜で崖マークだらけ。左手にトラバースしていく林道を、取り付きを探しながら進む。大きな広い沢にぶつかったところから適当に尾根に取付く。
一応雪はついているが気温が高く、最初からズボズボいく。なるべく雪をつないで登っていくが、途中から藪とボロ壁の尾根になり、落石に気を使いながら1ピッチロープを出す。1,850mを過ぎると傾斜も落ち、雪がしっかり乗った気持ちの良い尾根となる。左手上方には三角錐の岩壁がそびえる。
Ⅲ峰西峰北壁だ。Ⅲ峰は双耳峰となっており、「猫の耳」と呼ばれる。雪壁を登りきると尾根は細っていき、小岩塔やナイフリッジ、時折藪が続く、このあたりは雪がつくとキノコ雪との格闘が楽しめそうな感じ。あまり進み過ぎるとテン場が無くなるので、この日は2,150m付近でC1とする。黒部川を挟んだ向こうには黒部別山、剱岳が望め絶好のロケーション。
夕方、まったりと過ごしていると、黒部の谷間を2機の戦闘機が爆音を轟かせて低空飛行で飛び去っていった。何の訓練だろう?
●5/1 晴れ
5時出発。細った尾根には小ピークが続く。雪をつなげ、ヤブをこぎながら進む。すぐに暑くなり、タイツと上着を脱ぎ、夏山のような格好での行動となる。昨日遠くに見えたⅢ峰西峰の岩壁が眼前に迫る。ここは直登出来ないので、大スバリ沢側をトラバースするのだが藪に阻まれ、リッジに乗ったりルンゼを下降したりと細かい地形をつなげ、まるで沢の高巻きのようなルーファイに体力と時間を費やす。Ⅲ峰西峰基部からは大きめの沢をトラバースし、最初の支尾根から登ろうとするが、ここのボロ壁激藪には閉口。懸垂20mで隣の沢に逃げてから直上。
ルンゼの雪が途切れたところで右の尾根に乗り、またまた我慢の藪漕ぎで、やっとⅢ峰東峰基部の雪田に抜ける。東峰の肩からピークまではハイ松の壁。ロープ2ピッチを出し、S津さんには空荷で登ってもらい、A久がザックを背負って登り返す。傾斜が緩んでくるとⅢ峰東峰のピーク。ここまで来るとスバリ岳がよく見えるようになる。天を突くようなキリッとした立ち姿が美しい。稜線の縦走路がもう目の高さで間近になってきているが、そこに至るまでには、もはや雪山とは言えないⅡ峰の双耳峰と本峰の乾いた岩稜を越えなければならない。Ⅲ峰東峰から激藪の斜面を懸垂Ⅱピッチでコルに降り、小尾根を跨ぎ沢から雪をつないでリッジに乗る。
ハイ松がうるさいナイフリッジを進み、小岩壁で1度ロープを出すと、まもなくⅡ峰西峰の基部に到達。
フラットソールならリッジ左のフェースから行けそうにも見えるが、逆層で残置ハーケン等も見当たらないのでパス。スバリ沢側からバンドトラバースにルートを求めるが、少し悪い。剥がれそうなフレークにカムでランナーをとり15mトラバース後、リッジを10m登ってフォローを迎える。
ここからⅡ峰西峰ピークまではロープ不要で岩の積み重なるリッジを進む。本当はこの日のうちにトップアウトしたかったが、ヤブにてこずり時間が掛かってしまった。まだまだ先は長そうだし都合よくⅡ峰東峰とのコルが雪田になっていたので、この日はここまで。
昼夜を問わず、赤沢岳本峰北西壁からは岩雪崩の音がカラカラと乾いた音を響かせていた。
●5/2 晴れ
朝一からⅡ峰東峰直下のハイ松を漕ぎ本峰基部へ進む。テンバから見上げた時は垂直に見えた本峰直下の岩壁も、近づいて見ると弱点があり、正面を避ければハイ松を繋げて高度を上げる事ができた。途中、岩塔を2つ越え、最後に浮石の多いルンゼを慎重に横断して右側のリッジをひと登りしたところで北西尾根とのジャンクションピークへ抜けた。
これまでの藪と岩稜の荒々しさがまるで嘘だったかのような穏やかな山容に拍子が抜ける。久々に見る雪面が目にまぶしい。今回、アイゼンは雪よりも岩とヤブを踏んでいる時間のほうが長かったが、最後のご褒美とばかりに雪踏みしめ赤沢岳へ至った。継続してスバリ岳を登るために縦走路を南下。白砂のコルには10時過ぎに到着し、この日はのんびりレスト。
●5/3 晴れ
スバリ岳中尾根を登るつもりで4時半に歩き出すが、赤沢岳のダメージが大きいのか体調イマイチなので縦走路からスバリ岳ピークを踏んだ。下山は屏風尾根を下降する予定だったが、白砂のコルから針の木雪渓へ落ちるノドの沢の雪が安定していたためそのまま下降し、約2時間で扇沢へ下山した。
(A久)
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