劔合宿・真砂沢チーム 2010/8/11-14

アルパイン(夏)

■メンバー

L:S山M彦(記)、N島N、M田M香、K島K世

【8月11(水)】

室堂直行組と扇沢(杉)2時間差で出発

15:00ころ 真砂沢ベースキャンプに集合

【8月12(木)】

03:00 出発
05:30 熊ノ岩の下部で、無情の雨・・撤退
07:00~ 朝からトランプと酒宴で楽しく過す

【8月13(金)】

01:20 出発
07:00 チンネ左稜線、M田トップで登攀開始
08:30 ずぶ濡れの2ピッチ目を登り霧雨に撤退
09:20 2回の懸垂で取り付き戻り
13:00 八峰Cフェース剣稜会ルート登攀開始
14:00 3ピッチ目の途中、先行が余りに遅く、撤退
16:00 ベース戻り宴会七並べ(トランプ)に興ずる

【8月14(土)】

04:40 S山帰路へ(残る3人も剣沢Pに合流下山)

 

【感想】M田

チンネ左稜線の撤退、苦労して来た道を引き返す。落石を落とさぬように、大切に、染み込むようにと歩を進めることに意識を集中させるが、波のように押しよせてくる感情に負けそうになって、時折、下唇を噛みしめながら登った。

池の谷乗越しを登りつめ小休止。振り返るとチンネ左稜線がよく見えた。我々の後から登ってきたクライマーがチンネを登っている。ついさっきまで私もあそこにいたんだ…。

「残念だったね」と、誰かがやさしく言った瞬間、ついに私の感情が溢れてしまった。悔しさもすごくあったが、それだけではなかった。
杉さんが、M田さんにチンネを登らせてあげたいと、ここまで引っ張りあげてくれたこと。
撤退の時、K島さんがさり気なく飴をくれて懸垂下降していったこと。N島昇さんも残念だったろう、いつもより静かだった。

40年前の仲間の慰霊碑に会いに単独で登るクライマーさんとの出会い。早く取り付いても登れないクライマーもいるし、遅く来てもチャンスを掴んで登れるクライマーもいる。力がある人、無い人、落石で怪我する人…。様々な人が剣岳に登るけど、皆、それぞれに想いがあって、皆同じに剣岳が登りたくって一所懸命なんだと感じたこと。

それ以外にも、書ききれない量の思いが一気に押し寄せてきて、感無量となったのでした。
こんな心を教えてくださった剣岳と真砂子チームの皆様に、感謝です。ありがとうございました。

 

【感想】N島

僕にとって18年振りのチンネの挑戦は退けられ、全て敗退という結果になりましたが、中味は良かったと思います。僕の最大の課題だったアプローチ、雪渓処理などはしっかり学ぶことができ、良い夏合宿になりました。

停滞中も暇をもてあますことなく、七並べなどで盛り上がりました。食事はK島さんが美味しいものを作ってくれてありがたかったです。下界にいるときよりもずっと良い物が食べられました。

剣は本当に岩と雪の殿堂だと思います。岩に登らなくても、雪と岩の景色をのんびり眺めながら歩いている時間も楽しかったです。北方稜線をのんびり歩く山行もやってみたいですね。剣稜会も良いルートで一度は登っておきたいし、やりたいことがどんどん出てきました。

充実して楽しい夏合宿になったのはメンバーに恵まれたおかげだと思います。杉さん、K島さん、M田さん、ありがとうございました。

 

【リーダーコメント】S山

ここ数年来、考えてきたのが”アルパインクライマーの定年はいつか?”である。

7年前のニュージーランド、Mt.Dixonの登攀時、200mのセラック大崩壊に遭遇、氷河を埋め尽くす雪崩に遭遇して爆風を浴びたとき。
一昨年の剣合宿、八ッ峰Dフェースから濃霧の雪渓を無音で落下してきた落石がザックをかすめて繊維の焦げる匂いを嗅いだとき。

こんなリスクの高いアルパインクライミングを続けていると、いつかは死ぬんじゃないか・・そろそろ潮時かな、と正直思った。
雪崩や落石は誰でも遭遇する、ある意味運の世界、個人の技量など無関係に襲ってくる自然の脅威である。

60才の定年まであと2年8ヶ月、人生の収穫期を迎えるためにはそろそろアルパインクライミングは引退する潮時かもしれない。
とはいえ、もう1回夏の岩合宿に参加して、たるみきった心身を鍛えなおそう、と思い始めたのが4月の末頃だった。

この年になると、体力の低下はもちろん、視力、バランス力、集中力、記憶力、判断力、全ての身体能力が低下している自覚がある。
日ごろから、自分でスピード命を標榜しているアルパイン、確保支点工作も練習を重ねないと・・遅くなる一方である。

4月から、ビギナーのマルチ訓練と称して、三つ峠、小川山、二子山、錫杖、御在所前尾根、そして北岳バットレス。
ほとんど毎週のように岩に集中してトレーニングを重ね、自信を持って剣に臨める準備は整った。

体力の低下、これも深刻な問題である。クライミングの技量以前の問題で、20数kgの重荷を背負って、雷鳥坂を登り、 真砂沢キャンプまでたどりつけないと話しにならない。また、夜中の1時から15時間行動、これも余裕を持って クリアしなければならない。これを意識して6月の富士山、7月は2回の北岳と白山日帰り。自分に課した長時間行動はなんら問題が無いことを確認できた。持久力は年を簡単には衰えないことが分かり、体力的な自信と準備も整った。

夏合宿の真砂チームのリーダーを務めるにあたり、クライミング技術と体力の両面で自分に課した課題をクリアできまた、同行者とも、春以降、様々なトレーニング山域を共有してきて、万全の準備で臨んだ今年の岩合宿だった。

結果は無残にも、チンネ左稜線は霧雨で2ピッチ目の終了点から撤退、懸垂で取り付きに戻り。帰路に寄った八峰 Cフェース剣稜会も雨のぱらつきと先行Pの遅さに2ピッチ目で撤退となった。両ルートとも、突っ込めば、結果的に登れただろうが、その時点で、ヘッデン下山になるであろう賭けにでることはできなかった。

今年の剣の気象は12日の台風の大雨後、13日の登攀は台風一過の快晴にならなかったのが残念だった。
慎重になりすぎたという反省もあるが、過去の事故事例を知れば知るほど、やばそうな場合は突っ込まないというポリシーに徹することになる。

これは、ぶな入会後、リーダーとして事故や下山遅れを起こしたことがない、自分のバリエーション山行のスタイルでこれからも変わらないと思う。 同行者には慎重すぎたかもしれない苦汁の決断だった。

N島くん、M田さん、K島さん、ごめんなさい、愚痴も言わずに撤退に同意してくれてありがとう。

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