2011年4月29日(金)~5月5日(木)
室堂~上ノ廊下~新穂高
黒部川横断スキー縦走
■メンバー
L M平 M亮(報告者)、S H呂志
■プロローグ
ぶな入会前の昨年のGWに一人で日本オートルートに行った時、「次は、スキーを積極的に使える谷をつないだ縦走をしたい」と思った。
同じく昨年、上の廊下での黒部川横断を果たせなかったSさんも同様の山行を考えており、ご一緒することとなった。
計画したコースは、室堂から谷をつないで進み、上ノ廊下で黒部川を横断後は尾根伝いに赤牛岳まで。そこから高天原、岩苔乗越、双六小屋経由で新穂高まで抜けるラインで、日程に余裕があれば水晶岳東面と黒部五郎岳のウマ沢にも足を伸ばすという、6泊7日・全テント泊の欲張りなものとなった。
■記録
4月29日(金)雪
室堂10:30 → 一ノ越11:45 → 御山谷滑降 → 窓13:40 → 中ノ谷1710m14:30 → 刈安峠15:30 →ヌクイ谷1530m15:50
美女平からの高原バスは朝の除雪が間に合わず、1時間半遅れで室堂に到着。ターミナルの重量計で各々のザックを量ると約17Kgだった。今回は軽量化に励んだので、テント泊1週間の割には軽いほうだろう。雪の降る中、出発する。
昨年の同時期は営業していた一ノ越山荘は雪に埋もれており営業開始前のようだ。昨年よりも雪が多いことを実感する。御山谷は視界約20mで風雪模様だが、標高を下げれば視界が回復すると判断し、滑り込む。
雪質は、上部は堅めだが、下に行くに従いパックされた新雪となる。視界が悪く、斜面が良く見えないので慎重に滑って行くと、雲の下に出た。獅子岳東尾根を中ノ谷側に乗っ越す鞍部(通称「窓」)もよく見える。
標高1800m付近からシール登高で「窓」に登り返し、本日2本目の滑走で中ノ谷の底に着く。そこから急斜面を刈安峠までジグを切って登り、本日3本目の滑走でヌクイ谷まで滑り込む。予定では更に谷を詰めてから宿泊予定だったが、滑り込んだ地点が台地上で安全と思われたこと、枝沢の水が汲めることから本日のテント場に決定した。
4月30日(土)晴のち 雨(一時雷雨)
ヌクイ谷1530m4:30 → 廊下沢の鞍部8:50 -→ 廊下沢滑降 → 上の廊下9:30 → 黒部川徒渉10:40 → 中のタル沢左岸尾根 → 薬師見平14:30
朝のうち晴れていた空も、みるみる曇ってきた。ヌクイ谷1950m付近まで谷底を進み、越中沢岳東尾根の廊下沢鞍部まで大斜面の中の沢状地形をシールで直登する。雪庇が張り出しているため、鞍部直下は左の小ピークを目指し、最後の斜面はツボ足で直登する。
鞍部からは黒部川まで廊下沢が一直線に伸び、赤牛岳が手招きしているようだ。赤牛山頂部は徐々に雲に覆われてきており、天候悪化の兆し。強風で飛雪が舞う中を、早々に滑走を開始する。
程よくパックされた雪質は滑りやすく、重荷も気にならない。下部崩壊帯の落石もそれ程ひどくなく板を傷める心配もなく黒部川まで滑り込む。中のタル沢出合付近まで左岸の雪原を歩き、膝位の流れの中を徒渉する。対岸は3m位の雪壁となっており、M平が空荷で登ってからザックと板を引き上げる。中のタル沢左岸尾根の急登を最初はシール、その後ツボ足で登っていると、みるみる天候が悪化し始め、激しい雷雨となってしまった。
本日の予定は高天原までだが、上部はさらに天候が悪そうで、これ以上の前進は危険と判断、薬師見平で風をうまくよけれそうな地形を選んで幕営した。
5月1日(日)雨
停滞
一日中雨。朝から酒を飲み、ひたすら寝て過ごす。
5月2日(月)曇のち 快晴
薬師見平5:00 → 2465峰南の鞍部6:40 -→ 赤牛岳10:15 → 温泉沢の頭手前13:00 → 水晶岳東面カール滑降 → 東沢谷2400m14:30
曇り空の中出発。4/30の行動打ち切りと5/1の停滞のため、予備日を2日消費した状態なので、高天原には行かず直接水晶東面に向かうこととする。降り続いた雨と朝の冷え込みのため雪面は氷化しており、傾斜が緩くても油断はできない。M平は早々にシートラーゲンに、Sさんも2465m峰手前でシートラーゲンに切り替える。
徐々に快晴となる中、特に難しいところもなく(しかしスリップしたらアウト)尾根通しに赤牛岳到着。ここは北アルプス最奥地、360度の大展望だ。2日前に滑った廊下沢は、下部崩壊帯で大規模な土砂崩れが発生しているのが認められる。ここからも尾根通しに水晶岳を目指すが、温泉沢左俣への分岐まではシートラーゲンで進む。
いざシール歩行に切り換えようと準備をしていると、Sさんのザックに差したストック上半分がないことが判明。結局これ以降、Sさんは滑降時にはシングルストックとなってしまった。(さすがSさん、日本のスキー100年にあやかって、レルヒ少佐のパフォーマンスですか!)
温泉沢の頭手前から水晶東面に滑り込む。期待に反し、雪質は表面がバリバリに氷化したモナカ雪で、全装備を背負っていることもあり、高度を下げるので精一杯。途中2600m付近で小尾根を周りこんで、南側のカールに移動、やっとのことで東沢谷の底に降りたときにはへとへとになっていた。時間も早いが、沢から一段上がった大木のそばを整地して、テントを張った。
5月3日(火)晴のち 雪
東沢谷2400m5:55 → 水晶小屋8:40-9:55 → 黒部源流2380m(BC)11:35-13:30 → 鷲羽岳南西尾根2650m14:30 → BC14:45
本日は黒部源流にテントを張ってから周辺で遊ぶこととし、のんびりと出発する。
出発準備中、野口五郎カールから2人パーティーが降りてきた。一ノ越以来初めて出会う他パーティーだ。シートラーゲンで彼らと前後するように水晶小屋までの急斜面を登る。(我々は小屋まで急な沢沿いに直登したが、最初は東沢乗越までの斜面を途中まで登り、2600m付近から水晶小屋に向け右斜上したほうが良かったかもしれない)
試しに小屋で携帯電話の電源を入れると、なんとバリ3!早速、変更した行動予定を山行管理係にメールするとともに、最新の天気図を確認する。実は4/30の雷雨で、迂闊にもラジオを故障させて以来、気象情報をほとんど得られなかったため、これは助かった!
のんびりしたのち、稜線伝いに岩苔乗越方面に歩きだす。ワリモ沢乗越でシール登高に切り替え、小ピークからは露出した地面を歩いて雪線まで下降する。そこからは快適に源流の斜面を滑るが、今山行初の快適なザラメで、二人ともご機嫌である。源流平坦部にテントを張り、乾き切っていない装備を木に干してのんびりする。
その後、日帰り装備のみ背負って鷲羽岳頂上を目指すが、途中から雪が降り始めたので、2650m付近から滑降開始。快適な斜面と軽い荷物で、テントまで楽しく滑り込めた。
5月4日(水)曇のち 快晴
BC 6:50 → 黒部五郎岳10:40-11:30 → ウマ沢滑降 → 黒部川2000m12:30 → BC14:35-15:15(撤収) → 三俣蓮華小屋16:05 → 弥助沢滑降 → モミ沢出合16:40
本日は日帰り装備のみのお楽しみ&休養日だ。予想に反して小雪が舞う中、出発する。
黒部源流域を快適に滑り、五郎沢出合からは五郎沢を詰めていく。徐々に天候も回復し、絶好のスキー日和となる。五郎カールを詰めるのは退屈、かつ稜線の雪庇崩壊に対しても脆弱なので、途中から黒部五郎南尾根に上がる。良い眺めを堪能しながら、大勢人がいる頂上までシールで快適に歩く。
のんびりした後、いよいよウマ沢の滑降だ。最上部はカリカリだったが、下部に行くに従い快適なザラメとなり、この上なく幸せな気分に包まれながら黒部川まで滑走する。ポカポカ陽気の中、黒部川沿いにBCまで歩き、BC撤収後、三俣蓮華小屋から弥助沢に滑り込む。水流が出始めた湯俣川沿いにモミ沢出合まで進み、樹林隊の快適一等地を今山行最後のねぐらとした。
5月5日(木)快晴
モミ沢出合 5:05 → 双六小屋7:30 → 大ノマ乗越9:10-10:00 → 秩父小沢滑降 → 下抜戸沢出合10:40 → 新穂高温泉12:30
朝一の雪のしまったモミ沢を登り始める。周囲の自然を満喫しながら、双六小屋までのんびり登る。双六谷をひと滑りで大ノマ乗越への登り返し点まで、そこからはシートラーゲンで乗越まで登る。槍穂の景色を満喫しながらのんびりと滑走準備後、最後のお楽しみ、秩父小沢に滑り込む。ひたすらザラメの快適斜面を楽しく滑り、二人とも大満足。しかし奥抜戸沢から押出してきたデブリランドで、M平がスキートップをぶっ刺し転倒。もう少しで左膝の腱を断裂するところだった。最後まで油断禁物だ。
あとは緩斜面の林道を穴毛谷出合まで滑り(レルヒ少佐は、ストックが1本なので大変そうだった)、雪が切れてからは歩いて20分程で新穂高のバス停に着いた。
今回のラインは、上の廊下~水晶岳手前と、黒部五郎の登り以外は徹底して沢通しに進んだため、スキーの機動力をフルに活用することができた。山行前半はぐずついた天候であったが、後半はコンディションに恵まれ、最高の滑りを楽しめた。
装備は山行中の快適さと軽量化のバランスを取って、ザック重量は初日が約17Kg、最終日は約12Kgであった。
<参考:主要な共同装備>
テント(2人用フライ付)、小型コンロ×1、小型コッヘル(1ℓ用)×1、ガスカートリッジ500g缶×2(1/4程余った)、6mm30mロープ(使用せず)、ラジオ、無線機、食料は熱湯で戻すだけの乾燥食品&行動食(700g/人/日)
二人とも1週間分の荷物を背負っての小屋なしスキー縦走は初めての試みだったので、とても良い経験ができ、かつ自信をつけることができた。
それに、Sさんの思い入れには脱帽!この日のために1年間地道なトレーニングを積まれたとか。見習いたいものだ。ありがとうございました!
コメント