メンバー:H光L、S幡、I原、S本(会員外)
12/17(土)
8:45 鹿島集落-15:00 P3
前泊で寝坊して予定より1時間ほど遅くなった。
予報が外れて雪が降り続いているが、急いで出発する。
張り詰めた空気の中雪のついた木々に囲まれると、いよいよ冬山が始まったのだと胸が高鳴り顔がほころんでしまう。
最初の急登は、雪付きは薄いもののクラストしている。新人のI原さんは慣れないアイゼンワークで大変そうだ。
急登を終えて尾根に乗るころには脛~膝ほどのラッセルとなる。
この3日間降ったであろう雪はやはりまだ柔らかい。
今回はラッセルが深いことを予想してスノーシューを持って行ったが、正解だった。
徐々に藪が濃くなる。
膝~太腿まで雪に埋もれつつ、身体に脚に絡みつく藪を払いながらガツガツ進んでいく。
やはりラッセルは嬉しい。
藪をかき分けながらのラッセルも、沢の藪こぎを思い出しながら雪を歩いている感じで二重に楽しい。
藪が多いということはツリーホールのトラップも多いということである。
落ちて悪態をつき、その苛立ちがエネルギーにとなりいよいよ燃えてラッセルが捗るという好循環。
怒りながら笑う、まさに竹中直人状態だ。
ジャンクションピークで一休みするが、雪が降り止まず視界も悪く、ラッセルで汗ばんだ身体でゆっくりすることができない。
遅れたメンバーが来たタイミングでH光・S本のラッセル隊が先行する。
ここからP3まではさらに藪も雪も深く、登りは胸ラッセルになった。
さらに、スノーシューではキックステップが効かないので急な登りは苦労する。
見えている藪だけならまだしも、雪の下に埋まった藪がラッセル中の脚に絡みつきいよいよ質が悪い。
ペースを落としつつも、そう遅くない時間には幕営予定地のP3に到着することができた。
P3は記録で見た写真とは異なり、まだ藪が多くてテント1~2張分のスペースしかない。
4人用テントを張るとそれだけでいっぱいになってしまった。
夜はS幡さんが鍋から溢れんばかりの豚キムチ鍋を作ってくれた。
これをペロリと平らげ、湯たんぽで濡れたものを乾かして早々に眠りにつく。
雪もやみ、明るい月のしんとした夜だった。
12/18(日)
5:20 P3-7:30 P2-9:20 P1-11:20 爺ヶ岳山頂-13:30 P3 14:00-17:20 鹿島集落
今日もきっと深いラッセルが続くだろう。
3時半には起床して準備する。
朝食は、これもやはり鍋いっぱいのサンラータン麺を瞬時に平らげた。
外はまだ暗い。
月明りに浮かぶ爺ヶ岳の、余りの神々しさよ。
しばし絶句。
今日はあの山の頂まで歩ませてもらうのだと思うと身震いがした。
アイゼンわかんを装着し、ヘッドランプをつけて出発する。
出発早々太腿ラッセル。
しばらく行くと藪はすっかり埋まり、深雪の急登が始まった。
尾根に続くライチョウのトレースを追い、息を切らして夢中にラッセルをする。
ここでも1m超の新雪が藪の上に乗っている状態。
深さは、胸:オーバーヘッド=2:8といった感じ。
目の前の雪の壁を、永遠にも思えるほどひたすら崩し続けた。
昨日はラッセルしなかったI原さんもラッセルローテーションに加わるが、慣れずに苦労している姿を見ていられないのか、3歩も進まないうちにS幡さんが「代わるよ」と声を掛けてしまう。
たしかにこれは、ラッセルの好きな自分でも10mほどで心が折れそうになる。
途中、ぴょこぴょこと動く白い影。
ライチョウ!
君の足跡を追ってここまでやってきたよありがとう!かわいい!
ふと気付けばいつの間にか空はほの明るい。
私に繋がる爺と鹿島槍が朱鷺色に染まり、ああ、もう、これは、余りにも幸福な瞬間。
振り返れば大町は金色の薄衣に包まれ、遠く富士山、槍ヶ岳、戸隠などが見える。
山がこんな姿を見せてくれたことがこの上なく有難く、多幸感の中で涙を流しながらラッセルした。
なんということだ。
そうこうしているうちにP2を越え、ナイフリッジ帯に入る。
始めの方は、ナイフリッジとは言えものすごく薄いわけでもなく、淡々と膝上のラッセルが続く。
1ヵ所、ツリーホールを踏み抜くと転落しそうな場所があり、1ピッチだけロープを伸ばした。
ここからもずっとラッセル。
すっかり樹林限界より上だと言うのに、雪は飛ばされておらず締まっているわけでもなく、まだまだ膝上~太腿ラッセル、登れば胸~オーバーヘッド。
爺ヶ岳はもうすぐそこに見えるというのに、一向に近づかない。
さらに、夕食・朝食ともに唐辛子系の食事だったせいか腹の調子が悪く、疲れた身体に追い打ちをかける。
永遠にも思えるラッセルで徐々に足取りも重くなり「交代」以外の会話もなくなった。
トップはもはや立ちもせず膝立ちハイハイでラッセルし始める始末。
立つとさらに沈んでしまうからなのだが、全く踏まれないよりは後続も楽だろう。
時間切れ敗退が頭を過る。
もう本当に、山頂までラッセルなんじゃないか…。
P1付近からは風が強くなり、時々突風が吹く。
ラッセルは膝上ほどになったが、この痺れたふくらはぎではペースも上がらない。
雪も深いし飛ばされるほどの風ではないけれど、耐風姿勢を取るふりをして休み休み歩を進めた。
登頂は、できないかもなぁ。
できなくても、仕方がなかったことにしようか。
山頂直下のハイマツ帯になって、ようやく岩が見えた。
もはやそこにあるポコが山頂かどうかなんてどうでもいい、というかそこまで考えられない。
とりあえず登る。登れるところまで。
と、ポコの上にひょっこり、黄色い標識が見えた。
先に到着したS幡さんが首をかしげて標識を見ている。
「ここって山頂…なのかなぁ?」
見ると、標識の文字はハングルなのだ!
他の面はエビのしっぽで完全に覆われている。
なんでやねん! ここはどこやねん!
山頂であってくれと願いながらエビのしっぽを拭うと、果たしてそこは、
「爺ヶ岳 中峰 二、六六九」
登頂できてしまったことに戸惑いを感じながら、力なく良かった良かったとねぎらいあう。
疲れていたし、なにより、登っている間あんなにピーカンだったというのに山頂は強風でガスっていて視界ゼロだった。
あとから残りの二人も上がってくる。
強風の山頂で休憩するわけにもいかないので、そそくさと写真を撮りわかんを脱いで下山する。
時間はすでに昼前、今日中の下山にはギリギリの時間だった。
ばっちりラッセルしているので下りは楽ちん。
少し下ると再び晴れた。
東尾根には自分たちだけのトレース、振り返れば山頂。
ようやく、登頂できた嬉しさと充実感がやってきた。本当によく頑張ったなぁとしみじみする。
緩くなった場所でようやく大休止を取った。
気付けばずいぶんおなかが空いていて、無限にレーションを食べてしまいたくなる。
下りも長い。
P3まで2時間半ほど。デポしていた幕営装備を片付けて、うんざりするほどの藪こぎへと突入する。
途中、登ってくる単独者1名と4人パーティーに出くわす。
ラッセルしていない割には遅い時間だ、トレース狙いなのかもしれない。
お礼くらい言ってくれてもいいのになとも思ったが、ラッセルして登頂する充実感と喜びを味わえたので、それでよし。
先に登れてよかった。
最初の急登のあたりに着いた頃にはもう4時半。
日没との闘いになるが、ここで滑落しては全てが台無しなので慎重に下る。
なんとか暗くなり切る前に堰堤に着いた。
下山後に入った蕎麦屋のストーブの暖かさとともに、下山の安堵と喜びが身体の隅まで行きわたる。
こんなにも苦労を分かち合った山行は、きっと忘れられないだろう。
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