・メンバー L: K野、M井
神保町の古本屋の一角に山積みされている岳人のバックナンバーを漁って、面白そうな山行記録を探すのが大学から帰るときの日課である。
大学4年の春、いつも通り漁っていると聞いたこともない記録を発見した。五剣谷岳東尾根左稜。場所は新潟県と福島県の県境近く、川内山塊にあり、「別冊太陽・日本の秘境」でも有名なガンガラシバナを有する早出川沢が山塊の中を流れている。沢登りの目標とするエリアの1つだ。
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夜明け前に出発し室谷谷左岸尾根にとりつく。予想外にトレースがありペース良く登っていく。標高が低いためアクティブスキン1枚になっても暑い。春山のようだ。視界が明けてくると後ろに御神楽岳が見える。北にはうっすら飯豊連峰も望める。
稜線に乗ってからは平坦な道が続くが所々ヒドンクレバスがあって踏み抜いてしまう。最初のうちは笑う余裕がある。視界が良好なので早出川に下降する起点となる尾根の同定は難なく出来た。
今回の山行の核心は2つの沢の徒渉とそれに対するアプローチである。地形図でスノーブリッジが出来てそうか徒渉して対岸に取り付けそうな場所に目星を付けていたが、雪の付き具合やそもそもスノーブリッジがあるのかは行ってみないことには分からない。
下降点から今早出沢迄1時間弱。目指している五剣谷岳が見えるが遥か彼方。稜線付近は白いが手前の東尾根左稜は所々黒く、クラックやクレバスがちらほら。やはり今年は雪が少ないのだろうか。予想的中、目視した今早出沢は夏と同じように流れている。沢床付近は地形図の示す通り切り立った崖となっており、歩いて降りようとすると雪を踏み抜いて沢にドボンするのは容易に想像出来た。雪も腐ってトラバースも嫌らしい。よく偵察すると30m川下に唯一対岸と繋がっているスノーブリッジを発見。厚みもあり何とか渡れそうだ。
ブッシュを支点にローワーダウンしてブリッジに降り立ち忍び足で渡る。途中ストン足が落ちた時は肝を冷やした。対岸の木でビレイしてM井さんを向かい入れる。渡渉には1時間程要した。そこからもぐずぐずの雪の斜面が続きもう2ピッチロープを延ばす。1ピッチ目ビレイ中すぐ上にある枯れた滝から大きな雪の塊が混ざったものが雪崩となって降ってきた。脇でビレイしていたからロープが巻き込まれるだけで済んだが、出だしが後5分遅れたらリードは沢床に逆戻りだ。気持ちを切り替え150m上のブナの台地をめがけ急登を登る。慣れてきたもののヒドンクレバス越えに苦戦。テント場直前の雪も悪くM井さんに空荷で越えてもらい荷揚げした。
16:30に行動を終了。春が近いからかまだ明るい。
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入山3日目。快適なブナの台地を後に夜明け前から行動開始。この日はヤジロ尾根を少し登り830m地点から割岩沢と小割岩沢の出合いの徒渉点に下降。対岸に渡り五剣谷岳を越える予定だ。
ヤジロ尾根に乗り下降に向かって登るが、思いの外この尾根が曲者であった。木々が生えてるが両側が着れ落ちた崖で雪は木の根に乗っているような状態。勿論クレバスも無数に存在している。ワカンからアイゼンに切り替える。雪の質が悪いのか優しく足をのせても崩れてしまうし、目の前にはぶったった小さな雪壁?が所々ある。丁寧に雪を処理しつつ3ピッチロープを出す。
下降点についた時点で10時で此調子ではでは五剣谷岳愚か手前の916mピークが限界だろうか。尾根下降は上部で2ピッチ懸垂し時より穴にはまりながら進み、13時頃割岩沢の出合いに着く。
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大分当初の計画より遅れた。斜面によっても雪質が異なってくる。明日以降今日のような雪だと骨が折れるなぁ。916mピーク迄のルートの状況が不明なので明るくなってから行動するとし、乾いた物に着替え湿ったシュラフで体を休めた。夜分に今までで一番大きな雪崩音を聞いた。
流石に疲れたいたからか湿ったシュラフで5時間位は寝れたようだ。テントから出ると昨日の雪崩は50m手前まで迫っていて驚いた。高い場所に張っておいて正解だった。
テント場から先はロープを出すような箇所はなく、900m越えてくると森林限界を越えていよいよお待ちかねの雪稜の世界へ。標高も上がりワカンもほとんど沈まず快適に歩ける。しかし、全てgood condition とはいかないのが川内山塊。ホワイトアウト寸前、視界悪いときで20m弱。互いにコンパスで現在地と進行方向を確認しつつ五剣谷岳へ向かう。
たまにストンと落ちたりするが以前と比べて回数は減り助かる。3日前にたった室谷側の稜線は殆ど霞んで見えない。思えば遠くへ来たものだ。山頂直下の雪庇をスコップで切り崩しつい五剣谷岳山頂に立つ。周りは真っ白で景色も皆無なのだが握手で登頂を祝う。
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15:30頃銀次郎を越えて七郎平山より少し前の平らなテント場適地で天幕。久々に雪崩の心配から解放された。それでも雪崩の豪音を聞かない日はない。
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入山して6日目そろそろ1週間近く経つというのに室谷に来たのが昨日の様な感覚だ。
鈍行の終電に間に合うよう暗いうちから行動開始。その代わり現在地同定とバックアップにGPSを起動した。木六山を越える迄は地形は読みやすく単調なアップダウンを繰り返す。木六山から計画だと釜の鍔に下山予定だったが、悪場峠東側の高石方面には集落が奥まであり除雪された道路が近い。悪場峠まで北へ延ばし、冬季閉鎖されている林道を下ることにした。悪場峠へ降りる尾根の手前で片野の行動食が底をつき、若干シャリバて気味だが終わりは近い。林道は雪の下がアスファルトでラッセルが楽。へとへとで長く感じていたが1時間で高石集落の除雪最終地点に到着。久々の道路に2人で感激した。と同時に長い山行も終わったんだと安堵感に包まれた。
一旦川内山塊の懐に飛び込んだら当然トレースは皆無であったが、カモシカのトレースに導かれることも何回かあった。足跡をなぞったというよりか歩きやすいと思った所に足跡が続いていたのだ。動物もルーファイにおいて考えることは一緒なのかもしれない。
最高高度が1200m満たないルートではあるが、沢床からの標高差は800mあり横断を考える上では侮れない比高である。そういうことでは高山に匹敵するようなボリュームの山行が完遂できた。少なくとも自分たちの知恵や技術を出し合い協力して山を越えられたのはこれからの雪山山行の大きな糧になると感じている。何れは国内屈指の横断である黒部横断や薬師岳東面の雪稜へ繋げていきたい。(報告/抜粋 K野)
3/1(晴れ):8:30新宿駅‐16:02津川駅‐17:00室谷集落除雪最終地点C1
3/2(晴れ/曇り):5:30C1‐8:20 840mピーク‐10:30 884m下降点‐13:00今早出沢渡渉‐16:30 500mぶな台地C2
3/3(雨・みぞれ):一日停滞
3/4(晴れ後弱い雨、みぞれ):5:00C2‐10:00 830mヤジロ尾根下降地点-13:30割岩沢・小割岩沢出合渡渉‐17:30 770mコルC3
3/5(曇り・ガス/晴れ):6:15C3‐11:00五剣谷岳‐13:15銀太郎山‐14:30銀次朗山‐15:30七朗平山手前のピーク脇の斜面C4
3/6(晴れ):5:30C4‐8:20木六山‐11:20悪場峠‐12:40田川内集落除雪最終地点‐帰京
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