メンバー:L A久、K野
1日目
6:15 品沢高原発 – 8:00 大沢二俣 – 9:50 第1岩壁基部 - 13:50 第2岩壁基部 - 16:45 コル - 18:00 偵察後幕営
2日目
6:50 出発 - 7:10 第3岩壁基部 - 9:20 第4岩壁基部 - 11:00 P4稜頂上 - 12:30 テンバ - 14:30 品沢高原
○報告
ぶなに戻ってきて最初の本チャン。2019年に一度計画したけど、転勤で行けなくなったルート。
K野はずっと登らずに待っていてくれた! まさに、とっておきのルート。
しかし、ここは近年登られたという話は聞かない。webでも登った記録は出てこないし、紙の時代の数少ない記録も完登は見たことない。
登山体系では氷、雪、岩の総合力が必要で、強い体力も要求されるとある。
そんなとこ、本当に自分に登れるのか? 楽しみよりも畏れの方が大きい。 とうとうこの日が来たという感覚。
●1日目(晴れ)
いつもの品沢高原別荘地から歩き出し。アプローチで懸念していた大沢も、雪が少なく安定しているので二俣にワカン、ビーコン、プローブをデポした。
右俣を少し遡ってからP4稜に続く尾根にのり、しばらく2人でラッセルを回す。
徐々に傾斜が増し、ドーム状の岩峰基部でロープを出した。
[第1岩壁]
〇1ピッチ目 K野
「お先、いきます。」とK野がロープを結ぶ。「さっき“ビビってます。”っていってたやんか?」って言うと、「核心はお譲りします。」だって。
岩壁基部の高度感ある草付きを斜上していく。簡単そうだけど、雪が浅くてアイゼンもアックスもバシッと決まらず気持ち悪い。
途中灌木もなくランナウトのところにイボイノシシ一本打ち込む。持ってて良かった。
〇2ピッチ目 A久
核心のチムニー。スラビーな上に序盤からランナウト。「マジか。怖えーよ!」 氷を叩き落とし細かなホールドを拾いながら進むと、先人の残した特殊ボルトを発見。ランナーを取ってホッとするが、チムニーはますます狭く立ち上がりザックはここにデポ。
割れ目に挟まりアイゼン履いてのバック&フットは窮屈すぎるし、スノーバーやらカムやらアックスやらがいろいろ絡んでウットウシイ。さらにはランナウトで喉はカラカラになる。最後は必死にアックスを刺して雪稜にズリあがり第1関門突破。
[第2岩壁]
〇3ピッチ目 K野
岩峰の右を回り込む雪壁にロープをのばす。ビレイヤーからは終始見えない。
木がまばらに生えてるから大丈夫だろうと思っていたけど、時折ザザァーと雪が落ちてくるだけで、なかなか進まない。
フォローで登ってみてその理由が分かった。踏むとヤブが出てくるザラメのスカ雪壁。ぜんぜん足が決まらない。
狭いスノーコルで木にハンギングビレイしたK野が待っていた。
〇4ピッチ目 A久
スコップで登路を刻むが足が決まらず体が上がらない。もがけばどんどん雪が崩れスタンスは無くなっていく。
何とかスカ雪壁を脱けると高度感がある気持ちの良いプラトーに出た。ここで時計は16時前を指す。初日に第2岩壁上まで進めたのは上出来。
しかし目の前に立ち塞がる第3岩壁は尾根というより横広の岩壁帯。「アレ、どうやって登るん?」
グループ・ド・モレーヌの記録と登山大系では登攀ラインが異なる。見た目P5側のチムニーが弱点の様に見えるけど、そこにアプローチできるかが微妙。
わずか見たふたつの記録では、ひとつが第3岩壁、もうひとつが第4岩壁を前に敗退している。
初日は第3岩壁下のコルを幕場とし、日暮れ前に偵察を兼ねて雪壁に1ピッチ分のFIXを張っておく。
■2日目(雪のち曇り)
前夜、テントに入ったとたんに降り始めた雪は幸い10㎝程度の積雪にとどまった。
数十年間記録を見ないルートにいる緊張感と期待がいりまじる不思議な感覚。
当初の計画では全装背負ってピークを踏み、P5かP3の尾根下降のつもりだったけど、日帰り装備で往復に変更。丁寧かつスピード勝負でピークを狙う事とした。
[第3岩壁]
〇5ピッチ目 A久(前日の偵察時)
岩壁基部までラッセル。足元は大沢まで一直線に切れ落ちていて少し緊張。
〇6ピッチ目 K野
岩に取り付く。小雪が舞うが視界は良好。その分かえって高度感、露出感が増す。周辺ではそこかしこでチリ雪崩が発生。
もっとも傾斜が強い部分のプロテクションはプア。空荷とは言え技術よりも度胸が試される。これを越えると雪稜セクション。
[第4岩壁]
〇7ピッチ目 A久
いよいよ最後の岩壁まで来た。
稜線はもう手が届きそうな距離だけど、2017年のP6尾根ではあと10mと迫りながら敗退しているので、まだ気を抜けない。
尾根の左右は切れ落ちているので、ブッ立った正面から登るしかない。
高さのない壁なので1ピッチで行けると思ったけど、ロープが屈曲して重くなるので中段の雪のテラスでピッチを切った。
〇8ピッチ目 A久
「短かったので、最後もう1ピッチどうぞ。」とK野が譲ってくれた。
岩と泥壁のコンタクトラインを攀じるがランナーはひとつもとれないし、やっと届いた灌木も掴めば折れて焦る。
最後、岩から雪に乗りうつれば終わりなんだけど、胸を突く雪壁が簡単には終わらせてくれない。苦しい体勢で雪を切り崩し、しっかりした木でピッチを切る。あとはK野を迎え入れて緩斜面になった雪稜をたどるだけだ。
いよいよフィナーレが近づく。P4はぶなに戻ってからやると決めていた。いつ実現するかも分からず待ち続けた5年。はやる気持ちでラッセルし続けオレ達はP4の頭に立った。
なんていうタイミング。それまで立ちこめていたガスも晴れ、急激に視界が開けた。
真っ白い立ち姿が凛と美しいP5尾根と、迫力の核心岩壁を擁するP3尾根が左右を囲み、今、西岳の真ん中にいる。
やったぜ! 完登記録が見つからなかったP4稜を、わずか2日で登れたなんて信じられない。
ずっと待っててくれた若いパートナーも、すっかり頼もしくなって今回力を貸してくれた。
本当に感謝。ありがとう。
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