KYRGYZ EXPEDITION 2024 2024/8/3-8/18

アルパイン(夏)

2024年8月にキルギスのアラアルチャ渓谷の 最奥地に位置する3,881m峰前衛峰の北東壁から2ルートを初登攀した。

【メンバー】Lビッグワン(ぶなの会)、K坂(ぶなの会)、Y田(無所属)

【行程】

2024年8月3日(土)~8月18日(日)16日間

【登攀対象をどう選んだか】

今回の大きなテーマが「ゼロから未踏の山を探して登る」であった。

今までは仲間や先輩発案の海外遠征に参加してきた。そこで経験したものを踏まえて、自分にとって魅力的で登りたい山を探す事にした。

ビッグワンにとって、キルギスは、8年前にレーニン峰遠征で訪れていておりある程度土地勘も有ること。

加えて、RS100号のクロニクル欄でアラアルチャ渓谷が紹介されており、未開の可能性を秘めていたのも大きな理由だ。

登攀対象に辿り着くまで主に下記のツールを活用した。

  • Kyrgyzstan A Climber`s Map & Guide

紙の概念地図。海外AMAZONで購入。正直あまり役に立たなかった。

  • Kyrgyz Alpine Club編纂のトポ

https://kac.travelasia.kg/category/guidebook/

アラアルチャ周辺の登頂及びルートが網羅されている。

結果的には、ここのエリア外の山域を選択。

  • American Alpine Journal

既登記録の照合に活用。

https://americanalpineclub.org

  • Google Earth

最も活用したツール。アラアルチャ渓谷を起点に探した。ここで今回の山に辿りついた。

PCアプリ版の方が写真を地図上に表示できたり、過去の画像を表示しやすかったりと使い勝手が良い。

最終的に選定した候補をKyrgyz Alpine clubへ問合せ、登頂記録が無いことを確認。

山の写真に幾つかルートを書き込み、詳細は現地で照らし合わせながら登攀ルートを決める事にした。

【国内でのトレーニング】

2023年後半はトラッドシングルピッチ中心のトレーニング。

2024年春からメンバー全員で荷揚げやユマール等のロープワーク、システムの確認を中心に取り組む。

【アプローチ及びデプローチ】

アラ=アルチャ国立公園はキルギスの上高地といった雰囲気で奥の方までトレイルがついている。          今回は最奥部まで向かったが、行きはダブルザックで40kg超という重荷だったので二日間かかった。帰りはわずか数時間。

【現場でのルート選定について】

2日かけてBCに到着。翌日画像で検討していた北壁から北東壁、及びデプローチで比較的傾斜の緩い斜面の偵察に向かう。

結果北壁は岩質が逆層で脆く、剥離や落石跡も著しい為リスクが高いと判断。

また、デプローチは滝谷を数倍した規模様なガレ場で、此方も落石が懸念。

北東壁側は大きなバンドが2つ走っており、第一バンドから上は幾つかクラックが見受けられ表面も見たところすっきりしている。

第二バンドは純白で目立つスラブ(以後白壁スラブ)で構成されている。北壁より傾斜が緩むが、幾つかラインは引けそうだ。

またBCから対象の山が良見えるので、双眼鏡でクラックなど細かいセクションを注意深く観察した。

【2回に渡るトライ】

BC付近の天候は1日のどこかで一雨降るを繰り返していた。予報を見て夕方まで天気が持つ日を待ってトライ。

◆First attempt

ルート名:vot!vot tak! ※ロシア語でそこだ、そこをいけ!

ピッチ数:5ピッチ(5.9)

偵察時にギアをデポしたお陰で取付まで小一時間で済む。

第一バンドまでは、上部が露岩しているものの大方ガレ場歩き。ロープは不要だった。ただ雨が降れば露岩のスラブが滑るので、懸垂も視野に入れておかねばならない。

1P 逆さくの字40m 5.8(ビッグワン)

出だしは濡れたコーナー。右壁スラブ面を拾いながらレイバック気味にグイグイ進む。ランナーはカム。25m程で一旦両足で立てる小テラス。

そのままクラックは上に続いているが下部より本格的に濡れている。

回りこもうとするが良いクラックラインに合流するまでに良いプロテクションが取れない。小テラスに戻り、クラック左側の白いスラブ状のフェイスへ出て直上を選択。

硬いがホールドが甘くバランシーな登攀を強いられる。ランナーもろくに取れない緊張した登りが15m程続き、アングルが打ててホッと一息。

おまけに酸素の薄い登攀なのでワンムーブ起こす度に息が荒くなる。

2P 逆さくの字上部左側クラックから第二バンド 50m 5.9(Y田)

くの字上部は不安定な岩が堆積してそうで左から回り込む。立ったハンドクラックを越えると傾斜が落ち着き、第二バンドへ出る。

ビレイ点は下降を考慮して5m左に移す。 

3P 白壁右スラブ~洞窟状ルンゼ入口 55m Ⅲ+(ビッグワン)

白壁の弱点を縫う様にして左上していく。難しくはないが一枚岩のスラブは硬くそして美しい。(壁の中で岩の組成も変化している。)頭上に偵察時にも目立っていた洞窟状ルンゼまで辿り着き、入り込む。実際は洞窟というほど圧迫感はなく、ルンゼ内に小さな小滝を有している。

ルンゼへ進入してすぐの所で、ハーケン2枚重打+ロストアローとリンクカムでビレイ。

4P 草付きスラブ 50m Ⅲ (Y田)

ルンゼを抜け出し、階段状の草付きスラブを進む。傾斜があまり無い分浮石のロープドラックに気を遣う。

5P フェイス~階段状地形 45m Ⅲ+(ビッグワン)

空が大分近づいてきた。抜けられる可能性を感じもう1ピッチ伸ばす。堆積物が比較的少ないライン取りで、浮石をクリーニングしながら登るとガレのテラスに出る。

後ろを振り向くとアクサイ氷河、クライマーズレフトに南東面ガレが見えた。恐らく上部で北東壁と合流しているのだろう。

5P目終了点からコンテに切り替えて荒々しい岩稜帯を進む。時々大きめの岩がグラついて恐ろしい。顕著なピナクルに登り詰めるとそこは前衛峰の一番高い場所だった。

下降は最終ピッチ終了点から同ルートを5ピッチの懸垂で下降。最低限ハーケンと捨て縄で下降点を構築した。17:00過ぎにテント場に戻ると冷たい雨が降り出す。

◆Second attempt

ルート名:Life is like a box of chocolate

ピッチ数:6ピッチ(5.8)

第一バンドを左上して左奥のクラックフェイスから取り付く

1P凹角左クラックフェイス〜第2バンド白壁スラブ歩き 60m Ⅳ Y田

出だしのクラックが垂壁近く立っていて短いながら楽しい。

後はスラブの歩き。スラブ面はクラックに乏しくハーケンでビレイ

2P白壁スラブトラバース〜洞窟状ルンゼ入口 55m Ⅲ ビッグワン

白壁スラブを洞窟状ルンゼ目掛けて斜上する様にトラバース。

ロープが足らず、ルンゼ手前でピッチをきる。

3P目洞窟状ルンゼ〜凹角手前のテラス 30m Ⅲ K坂

前回のルートを横断する様にルンゼ右のテラスに上がる。顕著な凹角の下でカムにてビレイ。

4P目せり出した凹角クラック〜テラス 35m 5.8 ビッグワン

空に向かって伸びる凹角に向かう。

出だしの階段状は浮石が至る所にあり、スタンスを慎重に選ぶ。

凹角は硬いハンド〜フィンガーサイズのクラックが走っていて、最高だ。

要所でガバやステミングしやすいスタンスもあり、グングン高度を稼ぐ。

最後は岩塔右上する形でテラスに這い上がる。カムでビレイ。

5P目岩稜歩き〜煙突岩基部テラス 25m Ⅲ K坂

煙突岩(仮称)を登れるか探るため基部までロープを伸ばす。

6P目垂壁〜凹状フェイス 20m 5.9 Y田

煙突岩に取り付く。岩は15m程だが垂壁で手がかりがパッと見乏しい。

出だしからホールドが少ない上中々の露出感。

Y田はガバを掴み足ブラからの引き付け豪快ムーブ。プッシュで一段上に上がる。

その後凹状フェイスも浮石をケアしつつ慎重に登る。

抜けると先日の5P目の終了点のテラス右側に出た。岩稜はコンテで山頂へ向かう。山頂からはFirst Attemptと同様に懸垂下降。

【ルート詳細:黄色vot!vot tak! 赤色Life is like a box of chocolate】

【下界編】

お世話になったKyrgyz Alpine Club

キルギスの車は5台に1台くらいバンパーがないか、フロントガラスが割れている

旧ソ連感あふれる建物

市内中心部にある山道具屋「Red Fox」。品揃えはいまいちだったが、ガスなどは調達できる。

中心街からすこしはずれたところにある「Sport Expert」。こちらの方が品揃えはよい。

ラグマン。うまかった~!

【最後に】

この度は日大探検部OB会、剣山山頂ヒュッテをはじめ、資金や装備購入でお世話になりました。頂いた費用で登攀道具、医療品の調達に活用させて頂きました。
この場を借りて感謝申し上げます。

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