三峰川 岳沢 アイスクライミング 2025/1/11-13

アイスクライミング

[メンバー] クロスケ(記)、M藤、N島

[タイムスタンプ]

1/11 6:45 杉島ゲート発 ~ 14:00 岳沢出合 ~ 18:30 F2上 泊

1/12 7:15 F2上 ~ 13:00 ソーメン流しの滝 ~ 17:00 2700m地点 泊

1/13 7:00 発 ~ 8:15 大仙丈ヶ岳 ~ 9:15 仙丈ヶ岳 ~ 16:00 柏木登山口

アルパインアイスクライマーなら誰もが1度は憧れる、国内有数のビッグアルパインアイスルート、岳沢。

ぶなの会員にも、そのルートに憧れるものが何人かいた。

これは、このルートのために集まった、普段はそれぞれの山を楽しむ山屋3人組による山行記録である。

チーム編成

ぶな5年目となる筆者クロスケは、岩と氷瀑が特に好きなオールラウンドクライマーだ。

もちろん、一度は岳沢に行きたい人間の1人でもある。が、誰と行こうか。岳沢は、長いし、技術もある程度は必要だ。誰とでも行けるようなルートではない。

どちらかというと、普段は声がかかるのを待つ派の私は山の計画があまり上手ではないのだが、今回は自分でパーティー編成を行うことにした。

岳沢に行く仲間の条件は、

  • ①岳沢に行きたい人
  • ②体力がある人
  • ③アイスクライミングが上手い人
  • ④一緒に行きたいと思える人

②、③、④を兼ね揃えた、①の人を見つける。

というのはなかなか大変なものだ。

この山行の最初の核心はパーティー編成にある。と言っても過言ではないだろう。ここに妥協しなかった結果、トリプルSランクをつけてもいいような、ドリームチームが出来上がった。

発起人ということで山行歴もクライミングの技量も及ばないメンバーを率いる形となり、かくしてチーム岳沢は好天を掴み、アイスクライミングの旅へ足を踏み出したのである。

初日

旅である今山行は、入山口と下山口が異なる。なるべく楽をするため2台の車を使った。予想以上に混雑していた下山後の車のデポ地、柏木登山口で手こずり、ゲート歩き出しは7時を過ぎてしまった。駐車状況から察するに、どうやら2パーティーが先行しているらしい。

リニアだかなんだか知らないが、やたら綺麗で長い林道歩き。途中1台の作業車に抜かれて、沢沿いの道に分け入る。

かなり奥の方まで古い林道の跡があり、ここまで車で入れたらどんなに楽か、と、余計肩の荷物を重く感じる。

昨年途中まで岳沢にトライしている、N島氏の誘導により、途中までは迷いなく乗越に向かう。尾根に乗ると途端に薮がうるさく、また、ルンゼはルンゼで日が差しズブズブの雪に足を取られる。

約標高差1000mの尾根を超える頃には、先行を抜かし、正午も過ぎ、入山から6時間を経て、我々はやっと岳沢の入り口に立つことができた。ここからが、お待ち兼ねの本番である。

ハーネスを装備し、ヘルメットを被り、いざ入渓。雪の量はまずまずだが、先行がラッセルしてくれているので快適だ。休憩するたびにストックを忘れて取りに戻るメンバーを待ちながらゆっくり進むと、F1を巻いている先行に追いつく。

気温は終始-10℃はあるのだが、雪に埋もれた滝は凍っておらず、滝の下には大きな釜が口を開けている。

仕方なしにF1を巻き、側壁をトラバースする形でF2に向かう。斜面の下にはいくつもの釜が待ち受けており、万が一落ちたら凍死できるだろう。慎重にトラバースしていくが、今度はジャージャーの前衛滝が現れて、大高巻きを余儀なくされる。遠目に見えるF2も取り付きには釜がありどうやら雲行きが怪しいが、夕日は眩しくなってきた。

とりあえず本流からはあまり離れないように、急な斜面を登っていくが、さすがにフリーソロは勘弁な斜度になってしまう。後続も続いてて、登る以外の選択肢はなく、細い根っこにセルフを取ってロープを出す。この辺りで日が暮れてきて、

「悩んでる時間が1番もったいないから、早く決めろ」

とお叱りを受ける。

ごもっともだが、暗いし、どうするのが正解か即断できない。

なんだかアルパインらしくなってきたじゃないの。と、焦りの中にもワクワクが現れる。

高巻き先が見えない以上、やはり本流に戻るしかないだろう。リーダーの決断を伝えずとも、足は自然と本流へと向かっていた。

ヘッドライトの明るさを頼りに、斜め懸垂でなんとかF2の中腹に出てみる。F2の上に出れば幕営敵地があるはず。。氷よ、繋がっていてくれ。と祈りながら、この山行初のアイスクライミングが、暗闇の中開始された。

M藤師匠はココ一番の大仕事をしっかり務めてくれて、ボロボロのスカ凍りに道を見出した。地上では色々(本当に色々)あるが、ことクライミングに関しては会の中でも信頼をおける、頼りになる人である。

情報通りF2の上にはテントを張れる場所があり、軽く整地して安息の地を得ることができた。この薄い布生地1枚で、なんと安心感があるのだろうか。シングルウォールのテントは結露が凄まじかったし、窮屈ではあったが、風もなく快適な一夜であった。

2日目

さて、どこまで行けるか。

山行の中でもメインとなる中日。

少しでも楽をしようと先行にラッセルを押し付ける作戦でゆっくり起床する。が、先行も同じことを考えていたのか失敗に終わる。。いつまでもダラダラしてても仕方がないので、我らがラッセル隊長、N島氏がガツガツ道を切り開く。N島氏は昨年2人で雪稜に行った際、氏がラッセルしてるにも関わらず私は追いつけず、結果9:1の比率でラッセルをして頂いた。私も不甲斐ないが、N島氏はラッセルをさせたら会の中でも1、2を争う実力だろう。

今回軽量化の為にわかんは持参してなかったが、最後まで膝より深く埋まることはなく、作戦勝ちだったと言えるだろう。

ラッセルマスターにおんぶにだっこで、続くF3に到着。時間短縮のためささっとフリーソロで登り、 残り2人のためにロープを出す。

F3の上からはすぐそこにF4が見え、テンションが上がる。昨日の氷は散々だったが、この先は期待して良さそうだ。

見上げる氷瀑は幅20m、高さは高い20〜30mってとこか。

この沢で最もテクニカルなF4は、頼りになるM藤師匠に任せる。ラッセル隊長、アイスクライミング隊長、チームの隊長。なかなかいいチームワークではなかろうか。

師匠は最弱点を長いストローク、リズミカルな動きでテンポ良く登っていく。相変わらず無駄のない美しい登りに見惚れてしまう。

ラインを変えてロープを垂らしてくれたので、同時登攀で滝上へ。やっぱり12kg弱を担いでの登攀は、全身が辛い。。否応なく息があがる。でも、難しい方が楽しい。

合流したあとは、そのままの流れで傾斜の緩い上部を登っていく。すぐ終わるだろうからギアはいらない、といつも通り油断しまくる私を、先輩2名はしっかり止める。まぁそれで後悔したこともあるしな、と、とりあえず持っていくだけ持って行ったら、次の滝でスクリュービレーになったので大正解だった。

そんな感じで、

3人でリードとラッセルを回しながら、テンポよくF5〜7を超えていく。どれもそんな難しくはないが、微妙にロープ欲しいかなぁくらいの高さがある。フリーソロ&フォローだけロープ作戦でテキパキ登ると、いつの間にか後続の声が全く聞こえなくなった。

3番手だったのに、気づけば先頭になっていた。

岳沢はチームで登るルートだから、チームの総合力がこの日入ってた中では1番あったのだろう。

まぁ、日頃の行いはともかく、

悪運強い、ぶな四天王のようなメンバーだしな。

楽しい氷瀑セクションは風のように過ぎ、

いつしかメインディッシュのソーメン流しの滝に辿りつく。

ここから先は未知となるラッセル隊長N島氏に1P目のリードを譲り、続く2P目はバテ気味のM藤師匠に譲ってもらう。

今回スクリューは1人3本+アバラコフ用の系10本持ってきたのだが、なぜか最後までN島氏のスクリュー3本はザックの中から現れることはなく(そこまでの滝は小さいから必要なかった)、なぜかランナウトに耐える2P目となった。笑

登りながら頭の中では、

支点に2本残すとして、あと⚪︎本か。と、常に残数を確認しながら、

  • まだ早い。あそこに着いたら打とう。
  • いや、あのテラスの方がいいか。
  • スクリュー打つの大変なんだよなぁ。。

と、アイスあるあるの、

キリがいいとこで打とうとした結果、全然打たないムーブが炸裂した。しかもその少ない1本は、水氷でアルミ固まる現象で使い物にならなくなってしまうおまけ付き。

最後にふさわしい登りでソーメン流しを超えると、軽く吹雪きも出てきて、今日は無理せず沢の中でのビバークが良さそうか、という空気になる。M藤師匠はクタクタで、もうココで泊まろうよ、と目で訴えかけてくる。気がする。

2泊目の目標は下降する尾根の中腹だったからだいぶ遅れているが、まぁ色々あったし仕方ないだろう。とはいえ目処が付くほどには標高を稼いでおきたいよなぁ。

と、幕営敵地を探すふりをしながら、

1人でドンドン突き進む。

そこもいいけど、あの上も良さそうっすよ。

とか、

あの上まで行っていいですか?

とか、

あ、あそこにいいとこあります!

なにかと理由をつけて登っていく。

特に狙いがあった訳ではないが、

この辺がラストチャンスだろうな、という岩陰を無理矢理整地して、今宵の宿を立てる。岩角でテントが破れるかと思ったが、テーピングしたりロープ置いたりでなんとか耐えてくれた。

テントを立てて、

水作りのための氷を割って、

寒さで手が痛いM藤師匠の「ガス!ガス!!早く!!」

の声を横耳に聞きながら、ふと振り返ると、

さっきまでガスで真っ白だった眼下に、

美しい夕焼け空が広がっていた。

ほんとに一瞬だったが、

「この空を見るためにココまできたのかもしれない」

と思える、とても綺麗な空だった。

この日の幕営地の標高は2700m弱。

気温は-18〜20℃で、とにかく寒い。。

加えて2泊目だから、テントもシュラフもドライとは言えず、火を消した途端に極寒だ。

大胆で雑すぎる水作り

(大胆で雑すぎる水作りの様子)

それでもなんとか終わりが見えてきた喜びで会話は弾み、残り少ない酒を飲んで愉快なひとときを過ごす。

狭いだの、寒いだの、早く帰りたいだの、愚痴は絶えなかったが、それ以上の大きな問題にはならず、今日も1人だけ大きなエアマットを広げて豪勢に寝させてもらう。

M藤師匠と私は、しきりに、

寒い…寒い…と呟き(心の声ダダ漏れである)

と、あまり寝られぬ夜を過ごしたが、

N島氏は、寝初めてたら快適だった。と一言。

そんなあったかい装備使ってなさそうなのに、どれだけ身体が強いん…

最終日

とにかく寒くて仕方ないので、一刻も早く歩き出したい。もちろん疲れはあまり取れてないが、寒いよりはマシである。

日の出とともにテントをたたみ、大仙丈ヶ岳までのラストマイル。

適当に尾根に登る頃には、霧は晴れ、青空が私たちを待ち受けてくれる。なんて気持ちのいい雪稜なのか。

目標の山頂も、道標も、進んできた道も、麓の街、対岸の山、まるっと見渡しながら歩くと、疲れてるはずなのになぜか足取りも軽くなってくる。

のは、文字通り真実のようで、

昨日はクタクタでついてくるのに必死だったM藤師匠が、今や追いつけないスピードでラッセルをしている。

絶景のビクトリーロードは楽しく、あっという間に岳沢のゴール、大仙丈ヶ岳山頂に到着。

「終わったー!!」

と、万歳して大喜びする私と、熱く固い握手をするN島氏とM藤師匠。

達成感と喜びを分かち合い、集合写真。

(N島氏が絵に描いたような鼻水を垂らしているが、それには触れないでおこう。)

喜んだのも束の間、まだ下山には早く、

ここからはまだ次の目的地、仙丈ヶ岳まで軽く縦走路が続く。

登山道だし、多少踏み跡もあるし、天気も悪くない。

思えば厳冬期の3000m峰に登るのはこれが初めてな私。

冬は氷瀑だけ登って帰ることが多いから、シーズン中に山頂を踏むのは数えるほどしかない、そういう意味でも貴重な縦走路。

さすがに3000mの縦走路は歩いていても寒いが、やがて日も差し込み、冬山にしては珍しく視界が開けてくれる。

青と白のコントラスト。

空を輝かせるダイヤモンドダスト。

ここまで来ることができる者のみが見られる、白銀の世界。

どこをとっても美しい景色に、

ため息なんて大人しいものじゃ足りなくて、

歓喜の声が、あがり続ける。

静かな雪山に、私の声だけが響き渡る。

日頃の行いが良いから天に祝福されているに違いない。

と、悪名高い3人組が言う。

もう1つのピーク、仙丈ヶ岳には、たくさんの登山客が来ていて、

集合写真を撮り直してもらう。きっと会報に載るから、リーダーぶって偉そうにしておいた。

しかし、こっちの方が標高高いのに、

なぜこちらがノーマルの仙丈ヶ岳で、小さい方が「大」仙丈ヶ岳なのでしょうか。

という疑問はさておき、これで百名山ハントに1座追加である。残るはあと40座か。

あとは、ただただ降りるだけ。

楽勝だな〜、降りたら何食べようかな〜

なんて思っていた地蔵尾根が、とにかくほんともうえげつない長さだった。

最初こそ絶景で、

登ってきた岳沢や、縦走路、山頂が見渡せる素晴らしい尾根だったが、

樹林帯に入ってからはちっとも標高を下げやしない。

いや、それどころか、登り返しばかりありやがる。

下山させる気、あるんかいな。

と疑いの目を向けさせる尾根なのである。

あの黒戸尾根が可愛く思える長さなのである。

3時間もあれば下山できるかと思っていたのに、結局倍以上かかってしまった。

途中から林道になったり、

ないはずの登山道があったり、

靴づれが痛かったり。

靴づれが痛かったり。。

靴づれが痛くて変な歩き方して余計疲れたり。。。

最後の方は、疲れはそんなにないのに、ただただ靴づれが辛かったなぁ。。

なんとか明るい時間に降り切ることができて、

駐車場併設の南アルプスの天然水をたっぷり頂いて、回復!

入山口にデポした車を取りに行くと、ほかにまだ車が1台。

どうやら元先行たちは敗退せず、今も歩いているらしい。間違いなくヘッデンコースだろう。あの長い長い尾根、暗い中歩くのかー。想像するだけで、嘆息がもれる。

そのあとはいつも通りの温泉ご飯からの帰宅コース。

3日ぶりの地上は快適で、暖かくて、それだけで幸せだ。

普通の生活自体がありがたいことに気づかせてくれる山は、人を奢らせず、ずれがちな感覚を整えてくれる、大切な場所で時間だ。

昨年はあまり山に気が向かず、仕事に精を出す時間が長かったけど、

一度距離を取ったからこそ、改めて自分が山に登る理由が見つかったような気がする。

さて、今年は、いや、これからどこへ行こうか。

旅の終わりは、次の旅の始まりだ。

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