参加メンバーに雪山1年目の比率が半数と高かったので、現場で内容を初心者向けにアレンジして実施しました。
前夜に50cm程度の降雪があり、吹きっさらしの天神尾根より、西黒尾根下部の方が適していると判断し、場所も変更。
いろいろ直前の変更がありましたが、経験の長い先輩方の経験から得た技術レクチャーなどもあり、実のある訓練になりました。
●1日目(報告:)
①ギアの説明(土合駅にて)
・道具の説明、携行方法
・パッキングの仕方
・ビーコンの説明
②歩行
新人にとって今、一番大事なのは、雪の上をたくさん歩き、体で歩行技術を見につけることと考え、土合駅から歩いて移動し、ベースプラザから先は新人の皆さんを先頭にラッセルをしてもらいました。
・土合駅―ベースプラザ(つぼ足)
圧雪状のゆるい斜面で滑らないように。体重移動、フラットフッティングを意識して歩く。
・ベースプラザ―林道(ワカン)
緩い斜面でのラッセル。トレース有。
・林道―鉄塔(ワカン)
急斜面でのラッセル。膝を入れ、まわりの雪をステップに落とし、ステップを圧雪して踏み抜かないように乗る。
トレースをあえて外し、風下の吹き溜まり斜面での胸ラッセル。風上の圧雪斜面などウインドクラストの違い。ルート上の雪庇観察。
③ハンドテスト、ピットを掘ってCT
・プローブの組み立て方。テントポールと違う。
・ピット作成、30cm角柱を作成し、シャベルポンポン実施。
専用のスノーソーとホームセンターの鋸の違い検証。前者は30cm 目盛りがある。
後者は30cm以上で剪定用の荒目が木も切れるものが適している。何でも良いわけではない。
④雪訓
・滑落停止
滑落停止は練習しましたが、一番大事なのは絶対につまずかないこと、滑らないことを強調。
もし、滑ったら初動で止めること。スピードが出たら、よっぽど運がよくない限りサヨナラです。
・スタンディングアックスビレイ
形をレクチャー。リードがスノーバーでランナーをとって登攀中に滑落というシチュエーション。滑落者の滑落停止練習も兼ねる。
止めるではなく、流す。でないとスノーバーが飛ぶという事を体験してもらう。流す為に、グリップビレイでは止まりすぎる。
胸のカラビナにロープを通し、右手左手は別々にロープを持つ。カラビナを通したロープの角度で摩擦を調整。
また、リードは40m程度で止める。50mいっぱいに伸ばすと、流す分のロープがなくなる。
・土嚢懸垂で雪の支持力の実験
⑤その他
本の紹介。「生と死の分岐点」ロープを使う登山をする方は特に。生々しいですが、現実は皆に平等。
知らずに犯している重大な過失がたくさんでています。
今まで自分達が事故にならなかったのは運が良かっただけ。事故から得る教訓が満載。
●2日目
翌日は7時起床、予報通り深夜から雪が降り続けている状態で車はすっかり雪に埋もれていました。
朝食をとったあと土合駅周辺の状況を見てみると駐車場脇のエリアでも膝上から腰程度と十分な積雪があったため、ここでビーコン捜索および雪洞設営の訓練をすることに決定。
まずは待合室内でビーコンの基本的な操作方法について確認した後、ホーム側の通路へ移動しビーコンがどのように働くのか発信側のビーコンの向きや距離を変えて確認、複数埋没時のビーコンの表示および操作法についても確認を実施しました。
引き続き雪山での行動開始時に実施するビーコンチェックの効率的かつ合理的なやり方を4人パーティー(ビーコンが4個だったため)のリーダー役およびメンバー役を交代しながら練習しました。(9~10時頃まで)
手順は以下の通り。
1.全員ビーコンのスイッチを入れる(発信)
2.リーダー「それでは皆さん、ビーコンを受信(サーチ)モードに切り替えてください!」
→リーダーの発信機能およびメンバーの受信機能の確認。メンバー全員のビーコンに、近距離に一人埋まっている(=リーダーのビーコン)、という表示でればOK
3.リーダー「それでは私がちょっと離れますので、合図をしたら一人ずつビーコンを送信モードにして私の前を通り過ぎていってください。」
→引き続きメンバーの受信機能の確認。リーダーはメンバーから10~20mほど離れた場所までゆっくりと移動していく。それに併せてメンバーのビーコンに表示された埋没者までの距離が大きくなって行けばOK
4.リーダー「それでは一人づつゆっくりと私の前を歩いて通過してください。」
→メンバーの発信機能とリーダーの受信機能の確認。まずリーダーは受信モードにビーコンを切り替える。
メンバーは行動時と同じ順番(例:SL先頭、初心者がそれに続き…)に並び、一人ずつビーコンを発信に切替た上で約10m程度の間隔でリーダーの前をゆっくりと歩いて通り過ぎる。
その際リーダーはメンバーの移動に応じ自分のビーコンに表示された埋没者までの数字が小さくなって行くこと、そして目の前を通過するときに数字が最小となったことを確認した上で「はい、●●さんOK!」と声を掛ける。
チェックが終わったメンバーはそのままリーダーから5~10m程度離れた場所までさらに移動し、他のメンバーのビーコンチェック終了を待つ。
5.全員のビーコンチェックが問題無く終了したら、リーダーはメンバーが待っている場所まで移動してビーコンチェックが問題無く終了したことを伝え、自分のビーコンも忘れずに発信に切替えた上で改めて山行を開始する。
その後、今度は屋外の駐車場脇のエリアに場所を移し、雪が降る中実際のビーコン捜索の訓練に入りました。
まずは高橋・浅見・澤幡の3人の初心者に詳しい方法を説明せずいきなり捜索を実施してもらい、捜索終了後に見ていた仕込み役から評価コメントとアドバイスを実施。
その後捜索役と仕込み役を繰り返し交代しながら何回も練習を実施しました。(10~11時過ぎまで)
今回特に3人パーティを想定して捜索を実施しましたが、実際の山行に近い状況でどうパーティ間で役割を分担するか等色々体験して貰えたのではないかと思います。
また、最初は8分以上かかった捜索時間についても、すぐに安定して2~4分程度で捜索が完了できるようになったのは良かったと思います。
今日確認した主なポイントは以下の通り。
・遭難者へのヒアリングに基づく状況確認(これは最初から良くできていました)
・パーティー間での役割分担、装備の準備(ビーコン捜索は一人がメインに行い、他のメンバーはスコップおよびプローブ作業の準備および客観的にアドバイス)
・捜索中の二次雪崩への警戒
・ビーコンの構え方(水平に保ち方向は変えない、近距離になったらビーコンをなるべく雪面に近づける)
・距離に応じたビーコン捜索:誘導法および直角法によるピンポイントサーチ
・プローブの使い方(垂直に雪面に落とした後、そのまま突き刺す)
・深く埋まっている場合のビーコン捜索(一度数十センチ雪面を掘り込んだ上で改めて直角法によるサーチで絞り込む)
また、プロ-ビングでの感触を確認してもらうために高城さんに半身埋まってもらい、各自プローブが体に刺さる(?)感触を実感してもらいました。
その後、前日に出来なかった雪洞掘りを従来の計画通りの二班に分かれて実施。
最初は軽く掘り込んで終わりにする予定のところ、掘り始めると熱が入ってしまい、結局2時間ほどかけてかなり立派な雪洞が二つできあがりました。(11 時半から13時半)
その後各自の雪洞内で昼食と暖かい飲み物を取り、後ろ髪引かれながらも雪洞を埋め戻して訓練終了。
今日確認できた雪洞設営上のポイントは以下の通り
・雪洞の大きさや雪の堅さに応じた労力、作業時間
・役割分担(掘る人、掻き出す人)
・排雪用のシートの使い方
・スノーソーを使った効率の良い掘り方(ブロック切り出し)
・天井の仕上げ方、床の仕上げ方(天井は緩やかにドーム型に、壁と床は垂直にすると使いやすい)
・出入り口のふさぎ方(シートやツェルトをうまく利用)
・ろうそく置き場、小物置き場の作り方
なお、雪洞内での生活技術については今回体験する時間がありませんでしたので、今後機会を見つけて雪洞山行を実施して実際に体験していただければと思っております。一日中雪が降り続ける天候でしたが、かえって練習としては本番の状況に即した良い体験ができたのではないかと思います。
今回の訓練を通して覚えたこと、感じたことを是非忘れないようにしてください。
特にビーコン捜索はこういった練習によってのみ練度があがっていくスキルですので、少なくとも毎年雪山シーズンの初めには各自で実施するような習慣をつけていただければと考えております。
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