谷川岳 一ノ倉沢 衝立岩雲稜第一ルート 2010/9/4

アルパイン(夏)

●メンバー: N藤S木、N村Y之(練馬山の会/渓嶺会)

●行程: アンザイレンテラス 7:55 ~ 9P終了点 18:05 (略奪点でビバーク・翌日朝下山)

 

現場雑感

空を仰いでみた。アンザイレンテラス。前に一度来たことがある。ダイレクトカンテでヒーヒー言って半泣きしたっけ。

ブルーのスクリーンに白い雲のエンドロールが流れていく。楽しかった映画の終わりの様に。俺の人生?いや、いくら何でもそれは大袈裟だろう。死なないから大丈夫、多分。

だけど、だけど、俺は・・・

 

少しだけ、拗ねてみた。

だってヤツラときたら、「そんなボロボロのルートを登ってもしょうがないじゃん、しかも人工でしょ。」なんて訳知り顔で言うんだよ!

楽しく、気軽に、敷居は低く、覚悟は不要、チャラさ爆発、まず格好から。

借りてきた理屈で偉そうに語る奴らが横行し、担げないやつも歩けないやつも相当へなちょこなやつでもそしてそいつらより登れない俺でさえもクライマーを名乗れる。

鉄の時代の残骸を辿ることにもはや意味はなく、決死の想いで挑んで墜ちた真のクライマーの命を支えた変形したリングボルトは、無言のまま奥鐘で唐幕で穂高屏風で、そして衝立で、朽ち果てるのを待っている。

そんな時代を歩いてる。

だからこそ、クラシックルートを辿ってみたい。クライミングがお気軽で無かった時代の息遣いを少しでも感じたい。

 

「待たせたな。ウンイチ。」

声に出してはっきりと言ってみた。

みんなには笑われるかもしれないから内緒だけど、冗談抜きに結構な覚悟でここに来たんだぜ。

俺なりに思い入れがあるんだよ。ずっと前からお前のこと憧れていたんだ。
遠くから見ることしか出来なかったけど。

ガイドに金を払って連れてってもらうという手段もあるが、それじゃお前と対等じゃないし・・・・・・
てゆーか、ガイドも敗退してるじゃん。さすがに今回はマジでヤバいかも。

 

相方が登り出し、しゅるしゅるとロープが伸びていく。完登して下りて来られたら何をしようか。

週明けの職場で上司にタメ口で「俺、ウンイチ登ったんだぜ。お前はまたゴルフか、しょうがねえやつだなあ。」
と耳打ちしたい衝動を抑えられるだろうか?

ハングを避けるどころか、ハングを求めて右に左に移動していく絶妙なルートファインディング。

日本のアルパインルートの金字塔。ワースト・オブ・ワースト。泥臭さが燻し銀。

衝立岩雲稜第一。まだ始まったばかりだ。

 

※トポ(日本の岩場・日本のクラシックルート・ヒロケンさん赤本)では登攀時間5~7時間となっていますが、実際には10時間近くかかりました。(7:55 アンザイレンテラス → 18:05最終ピッチ終了)

5~7時間は無理だとしても8~9時間でトップアウトしたいと思っていましたが、
・支点状況
・近年の他パーティの記録
・3Pでの墜落+支点打ち足し(後述) 
などを考えると、まあこんなものかな という感じです。

 

各ピッチ所感・報告

●N藤が偶数P、パートナーのN村氏が奇数Pを担当

1P:アンザイレンテラスからフリーで二人用テラスまで。

2P:第一ハング。二人用テラスから左に回り込み凹角をフリーで直上後右に人工でトラバースしてハングを直上。
張り出しが大きく威圧感がハンパ無い。

3P:第二ハング。N村氏がピン抜けとピン折れで8m墜落。怪我無し。抜けた箇所は打ち直しました。
(精神的ダメージにより、この後の5・7PのN村氏リードは、動きが遅くなり、独り言が多くなり、良く言うとかなり凄くとても慎重になりまくり、別人の様でした。)

4P:現在の核心ピッチ。微妙な人工とピン抜けによりムズいフリーが混じる。
フリーの箇所は体感10C。トラバース、ランナウト、尚且つ超プアプロ。絶対落ちられません。

5P:三日月ハングを横に見ながら第三ハングからチムニーを経てボサテラスまで。
第三ハングはの張り出しは小さいがその後のチムニーが悪い。カムが無いと突破出来ません。

6P:草付きの凹角のフリー。洞窟まで。

7P:洞窟ハング。リップ部分がムズい。

8P:草付きⅢ~Ⅳ

9P:草付きⅢ~Ⅳ

 

●クラシックルートはピンが悪い遠い・岩がもろいは当たり前。周知の事実。
衝立雲稜はネット情報ではその最右翼。知ってて登ってるんだよ俺は!だから今さら騒がない!
その局面で慌てずどうするかのキャパが試されるのだと思います。
(そうは言っても残置紐スリングにアブミをかけて加重したらギリギリギリギリと音がして早送り映像のようにみるみる外皮が裂け芯がむき出しになったときは焦りました。N藤は不合格かも・・・)

●全体的に、エイドセクションはラダー登りでは無くトラバースが多いので、それなりの練習・経験が必要。
フリーのセクションは結構難しく面食らいました。(人工の後のフリーは難しく感じるけど、それにしても・・・・)
総合的に今まで登った山壁・マルチピッチの中で一番難しいと感じました。

●ラ-プ、スカイフック、リベットハンガーは未使用。
カムはリンクカム4種とキャメの0.3、0.4、エイリアンの黒を使用しました。

 

登攀終了後、すぐビバークも考えましたが、下りようということになり北稜を下降。
しかし略奪点あたりで眠くなってきたので衝立前沢上部でビバークしました。

とにかく、登れて嬉しかった。無事で良かった。本当に。運が良かったのかもしれません。
パートナーのN村氏に大感謝です。眠りにつくまで星空を見上げながらニヤニヤしてました。

長文ですみませんでした。

クライミングって本当に素晴らしい!

ぶなの会

ぶなの会

労山(日本勤労者山岳連盟)加盟 ぶなの会の公式HPです。

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

アーカイブ
TOP
CLOSE