■メンバー
L M平M亮
■プロローグ
積雪期の黒部川横断山行。僕がそれを知ったのは大学生の頃、山岳雑誌(岳人500号だったか?)の特集記事を読んだ時だった。サンナビキ同人・和田氏の執筆による過去の記録や、氏の半分妄想じみたドリームプランに大いに刺激を受けたのを覚えている。
その後、黒部の衆の記録(「黒部雪山」「黒部別山」)などを読み漁り、夢を膨らませていた。
そして大学3年の春、初めての横断山行に2週間かけて成功した(1992年3月:鹿島槍東尾根~十字峡~別山北尾根~八ッ峰Ⅰ峰Ⅲ稜~早月尾根下降)。
翌年、登攀的要素を多く盛り込んだ横断プランを計画していたのだが、諸事情で中止。社会人になってからは、なんとなく長期有休を国内山行で取得する気になれず、黒部横断の機会はもう2度と無いと考えていた。
それから20年弱。当時よりも格段に体力の落ちた自分が、また黒部横断を試みるとは思ってもいなかった。クライマー時代の友人・澤田さん(チーム84)や、ぶなの諸先輩方の記録などから「時期とルートを選べば、週末でも行ける」ことを知った時、「また雪の黒部に会いたい」と思い始めた自分がいた。
ここ数年、へっぽこながらも山スキーを始めていたこともあり、遥かなる憧憬と現実が結びつくのに、さほど時を要しなかった。
ラインは外的要因を比較的読みやすく、卓越したスキー技術が無くても行けそうな針ノ木&ザラ峠越え、そして行くなら一人で、と考えていた。
しかし昨年ぶなに入会後、楽しい仲間との山行も捨てがたくなり数人に声をかけたが、たまたま都合が合わず、結局原案通り一人で行くことに。
久しぶりの本気山行に心を弾ませつつ、降雪や気温の予報をにらみながらコンディションを予想し、入山日を決定した(う~ん、昔のルンゼ登攀前を思い出すなぁ)。
■記録
4月3日(日)曇のち快晴
工事現場4:45→扇沢6:15-45→マヤクボ沢分岐8:45→針ノ木峠9:30-10:00→針ノ木本谷合流11:00→黒部湖徒渉12:00-13:00→中の谷ゴルジュ入口14:00→ザラ峠16:50
前夜の内に信濃大町まで行き、七倉荘で宿泊。
当日早朝、別ルートでの黒部横断を目指すK岡さん&Y沢さんパーティーと一緒にタクシーで日向山ゲートに向かう。
ゲート手前1Kmの所で工事通行止。5時に開通とのことだが、待ち切れず歩きだす。
車道を運動靴で歩き、扇沢に到着。昔は登山者にも関電トンネルが開放されており、何度も片道6Kmのトンネルを歩いたものだ。懐かしくなる。
針ノ木雪渓を登りだすが、天候は曇り、というかガスの中。しかし雪は締まって安定しており、シールが良く効く。いいペースで登り続けるうちに視界が晴れ、雲の上に出た。
マヤクボ沢出合でK岡さん&Y沢さんと別れ、針ノ木峠への急登にジグを切る。最後までシールが使え、良いペースで針ノ木峠着。すっかりよい天気となり、これから滑る針ノ木谷や、遠くに槍・穂高が望める。
日当たりは良いが気温が低く、峠からの滑り始めはアイスバーン気味。慎重に横滑り&キックターンで高度を下げる。雪質、傾斜ともに幾分緩くなった所からは、幅広の谷を大回りで快適に滑って行く。
谷が狭まるとすぐに水流が出始め、数回板を脱ぐ。針ノ木本谷に合流してからは、スノーブリッジを利用しつつ、左岸右岸と行きやすい個所を選びながら黒部湖まで快適に滑る。
低温傾向が続く今季。黒部湖の水流は予想通り少なく、ほっと一安心。でも油断せず、事前に家でテスト済みの徒渉仕様に足回りを変更する。(靴下の上から膝上までの長いビニール袋を履き、その上に兼用靴のアウターを履く。フルチ○。)
自信満々でジャブジャブ渉り始めるが、な、なんと足が水浸しに。。でも平均してスネ、深くても膝くらいなので楽勝で徒渉成功。調べてみると、アウターの中に入ってきた細かい砂利でビニール袋に穴が開いたらしい。
太陽がさんさんと降り注ぐ中、丁寧に足を乾かしながら大休止。でも気温は低く、風もあるので結構寒い。
予定ではこの辺りで泊まる予定だったが、まだお昼過ぎ。とりあえず中ノ谷ゴルジュ入口まで偵察に行くことにする。
入口から見るとゴルジュはしっかりと雪が繋がっているようで、ほっと一安心。本当は、翌日の朝一でゴルジュを通過予定だったが、気温が低いこと、日向でも新たな雪崩の発生が認められないことから、そのままゴルジュに突入する。
予想通り雪は安定しており、難なくゴルジュ突破成功。この時点でまだ14時台だったので、今日中に行けるところまで行くことにする。天気予報によると、低温傾向が明日まで続きそうで、明日の午前中はザラ峠からの滑降斜面が氷化していると思われたため、西日が当たる本日夕方中に滑ってしまうつもりだ。うまくいけば、湯川谷の天涯の湯(工事作業員用の露天風呂)の側で泊まれるかも。
ザラ峠に近付くにしたがって風が出始め、気温がどんどん低くなる。ラッセルもなく順調にザラ峠に着き、滑り込む湯川谷側を覗き込むと一面雲海の下。斜面も氷化しており、上部は視界も悪そうなので、無理せず峠で泊まることとする。
風下の中ノ谷側の斜面を削ってブロックを積み、ツエルトで快適に泊まった。
4月4日(月)快晴のち晴
ザラ峠8:00→白岩堰堤下9:20→立山駅11:45
夜は満天の星空。結構冷え込んだが、風も弱くよく寝れた。どうせ下山だけなので、明るくなってから起きだし、のんびりと準備する。
案の定、峠からの滑り出しは氷化しており、自分のスキー技術では危険と判断。アイゼンで下り始める。かなり降りてから板を履き、幅広のU字谷を大回りで快適に滑る。
左手に立山新湯の湯煙を見送るとすぐに、最初の堰堤に出くわす。ある意味、ここから始まる堰堤地帯のルートファインディングが本ルートの核心だが、昨秋にハイキングがてら偵察済みなので、気が楽だ。
ラインはひたすら湯川谷左岸を進むが、要所要所で段差の下り口を見落とさないように気をつける。迷うことなく順調に滑って、天涯の湯対岸まで来た。
橋越しに露天風呂を観察すると、あいにく板囲いしてあるようなので入浴はあきらめる。そのまま白岩巨大堰堤上部まで進み、左岸のインクライン斜面を快適に滑降。ここまでくれば一応の安全圏だ。
あとは夏の工事用林道沿いに常願寺川沿いを滑るのだが、橋を頼りに対岸に渡る個所が何箇所かあるため、偵察時のメモを書き込んだ地図を見ながら進む。傾斜が落ちてからはヒールフリーにし、ストックで漕ぐ。
天鳥堰堤で堰堤に打ち込まれた梯子をクライムダウンした以外は、スキーを担ぐこともなく立山駅まで滑りこめた。
今回のラインは、先達に何度もトレースされているルートで、情報も豊富。しかも部分的には他の機会に偵察しており、「冒険的」な登山とは程遠いものであった。
しかし、不確定要素を極力排除し、可能な限り安全に長く楽しむのが、昔からの自分の流儀。雪も豊富で、スキーの機動力をフル活用した爽快な山行に十二分に満足できた。
やはりスキー縦走は楽しい!もっと滑降スキルを伸ばし、また充実する横断山行をしてみたい。今度は仲間と一緒に。
コメント